2002年 9月 1日 作成 述語論理の公理系 >> 目次 (テーマ ごと)
2007年11月 1日 補遺  


 
 今回は、述語論理の公理系を扱う。

 理論は、いくつかの命題を前提にして、それらの命題だけを用いて構築される。
 前提とされる命題が 「公理」 であり、前提の命題を集めた全体を公理系 (system of axioms) と呼ぶ。
 現代数学では、公理を理論の前提 (仮定) として扱う。

 公理は理論の仮定であるから、どのような公理を選ぶかという点は恣意的である
 ただし、その理論が整合性を保全するためには、以下の 3点が保証されていなければならない

 (1) 無矛盾性(consistency, noncontradiction)
   A ∧ ¬A となるような論理式 A が存在しない。

 (2) 独立性(independence)
   任意の公理 A が、それが属する公理系の他の公理から導かれない。

 (3) 完全性(complete, categorical)
   任意の論理式 A に関して、それが トートロジー ならば、体系のなかで証明可能である。
   つまり、「恒真」 とは 「証明可能」 のことをいう。

[ 参考 ]
 命題が要素命題のいかなる真・偽の可能性に対しても、常に、真になるとき、同語反復的命題 (トートロジー) である、という。

 
 算術の公理系として、ペアノ の公理系がある。
 集合論の公理系には、ZF や BG がある。
 述語論理の公理系には、ラッセル と ホワイトヘッド が示した公理系--彼らの共著 「Principia Mathematica」 の頭文字を使って、通常、PM と呼ばれている--とか、ヒルベルト と ベルナイス が示した公理系--通常、H と略称される--がある。

 公理系 H は、以下の 12個の公理を用意している。

 (1) A ⇒ (B ⇒ A).
 (2) (A ⇒ B) ⇒ (A ⇒ (B ⇒ C)) ⇒ (A ⇒ C).
 (3) A ⇒ (B ⇒ A ∧ B).
 (4) A ∧ B ⇒ A.
 (5) A ∧ B ⇒ B.
 (6) A ⇒ A ∨ B.
 (7) B ⇒ A ∨ B.
 (8) (A ⇒ C) ⇒ ((B ⇒ C) ⇒ (A ∨ B ⇒ C)).
 (9) (A ⇒ B) ⇒ ((A ⇒ ¬B) ⇒ ¬A).
 (10) ¬¬A ⇒ A.
 (11) A (t) ⇒ ∃x A (x).
 (12) ∀x A(x) ⇒ A (t).

 以上の 12個の 「述語論理の公理」 から、(11) と (12) を外したら、「命題論理の公理」 となる。
 ちなみに、H では、同一律・矛盾律および排中律が公理になっていないことに注意されたい。
 そして、¬¬A = A が公理として扱われている点を注目されたい。
 以上の公理を前提にして、H の体系では、以下の 3つの推論規則が用意されている。

 (1)  A, A ⇒ B 
        B

 (2)  A (a) ⇒ C 
    ∃x A (x) ⇒ C

 (3)  C ⇒ A (a) 
    C ⇒ ∃x A (x)

 以上の 3つの推論規則のなかで、命題論理の推論規則は (1) の三段論法だけである。
 (1) の推論規則を 「モーダス・ポーネンス (modus ponens)」 という。

[ 参考 ]
 伝統的な論理学では、三段論法は、いくつかの形式があるが、それらのなかでも、(1) の三段論法を モーダス・ポーネンス という。

 述語論理の完全性を証明した人物が ゲーデル である。 □

 



[ 補遺 ] (2007年11月 1日)

 ゲーデル の 「完全性定理」 は、第一階述語論理において、「恒真命題 (トートロジー) は、すべて、証明可能である」 ということを証明した定理です。「完全性定理」 を読むには、まず、以下の 4つの概念を把握しておかなければ、読んでも理解できないでしょうね (数学の専門家にとっては、以下の 4つの概念は既知のことでしょうが、私のような シロート が 「完全性定理」 の論文を最初に読んだとき、皆目、理解できなくて、[ 廣瀬・横田 共著 「ゲーデル の世界」 を案内役として、] 再読した際に、以下の 4つの概念が大切な役割を演じていることに、やっと、気づいた次第です)。

  (1) 無矛盾 (T ├ ¬A ⇒ {T, ¬A} は無矛盾である)
  (2) 恒真、充足的、恒偽
  (3) 証明可能性
  (4) 対偶 (A ⇒ B ≡ ¬B ⇒ ¬A)

 ゲーデル の 「完全性定理」 は、「T ├ ¬A」 ({T, ¬A} は、或る モデル で充足的である) に対して対偶を使っていて--すなわち、「A が モデル M で恒真である ⇒ ¬A は モデル M で充足的でない」 という対偶を使っていて--、「¬A は、T の任意の モデル で充足的でない」 ことを示して、「T ├ A」 として、「恒真 = 証明可能性」 を導いています。これらの概念 (無矛盾、恒真・充足的・恒偽、証明可能性、対偶) を前提にして、「完全性定理」 が、どのようにして構成されているかという点を 拙著 「論理 データベース 論考」 (131ページ) に示したので、参照してみて下さい。

 ちなみに、「完全性定理」 は、一般形として、「T が無矛盾なら、T の可算 モデル が存在し、そして、モデル が存在すれば、その形式的体系は無矛盾である」 という主張になるのですが、この モデル の存在性が、「不完全性定理」 に使われました。「完全性定理」 とか 「不完全性定理」 というふうに、ふつう、簡略名称が使われるので、われわれ シロート は、「完全性」 が証明された直後に、「不完全性」 が証明されたというのが奇妙に思われるのですが、それぞれの定理では、対象が違うのです--「完全性」 は 「述語論理の完全性」 であり、「不完全性」 は、「『或る条件の下--すなわち、算術化された体系--では』、体系が無矛盾であっても、『真』 とも 『偽』 とも判断できない命題を作ることができる」 という意味です。

 さて、「トートロジー (同語反復)」 という用語は、ウィトゲンシュタイン が 「論理哲学論考」 のなかで導入した概念で、以後、「命題論理」 のなかで、「命題関数 (真理関数)」 の恒真命題に対して使われるようになりました。述語論理の恒真性は、以下のような 「基本定理」 として まとめられるそうです。

    述語論理の恒真性 = トートロジー + 量化定理

 「証明可能性」 も、ゲーデル 以後、ゲンツェン が 演繹体系 LK を導入して (1934年)、「証明」 の構造的研究が進み、そして、ヘンキン が 「不完全性定理」 を一般的な形で構成しました (1949年)。ゲンツェン の LK と ヘンキン の証明法を基にして、タブロー 法が作られました。

 述語論理の 「基本定理」 と タブロー 法を使って、ゲーデル の 「完全性定理」 を証明した書物として、以下を読んでみて下さい。

  「ゲーデル と 20世紀の論理学 (2)[ 完全性定理と モデル 理論 ]」、田中一之 編、東京大学出版会。




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