2004年11月16日 作成 「関係の論理」 (対称性 と 非対称性) >> 目次 (テーマ ごと)
2008年12月16日 補遺  


 
 「関係の論理 (aRb)」 では、或る個体 a に対して、他の個体 b が、或る関係 R にある、ということを R (a,b) として記述します。T字形 ER手法では、個体 a および 個体 b を 「事物 (entity)」 として考え、関係 R を 「関連 (relationship)」 として考えています。そして、T字形 ER手法では、「entity」 を、「認知番号が付与された」 モノ として考えています。

 「関連 (relationship)」 として、「系列 (個体の並び、relation)」 が重視されることもあれば、重視しないこともあります。
 「系列」 が成立しない事象というのは、たとえば、個体 a と個体 b が、「恋人である」 という関係です。そのときには、R (a, b) でもいいし、R (b, a) でもよい、ということです。たとえば、「佐藤正美は、山崎恵美子の恋人である」 という文でもよいし、「山崎恵美子は、佐藤正美の恋人である」 という文でもよい、ということです。対称性といってもよいでしょう。「関係の論理」 では、「系列 (並び)」 を問わない記述は、以下のようになります。

      R { a, b }.

 並びを問わないときには、{  } を使います。したがって、{  } は、「恋人である ( 佐藤正美, 山崎恵美子) でも、「恋人である (山崎恵美子, 佐藤正美) でも良い、ということです。

 「系列」 が成立する事象というのは、たとえば、「父である」 という関係です。「佐藤正美は、佐藤敦の父である」 は 「真」 ですが、「佐藤敦は、佐藤正美の父である」 は 「偽」 です。これを非対称性といっても良いでしょう。
 「関係の論理」では、「系列(並び)」 を問う記述は、以下のようになります。

      R ( a, b ).

 並びを問うときには、(  ) を使います。したがって、「父である (佐藤正美, 佐藤敦)」 になります。

 つまり、「関係の論理」 では、モノ の並び (対称性と非対称性) が、まず、大きな論点になります。
 「顧客は製品を受注する」 という記述は、事象として観れば、顧客と製品が、個体 a と 個体 b を指示して、受注が 関係 R を指示します。つまり、「受注 { 顧客, 製品 } 」 あるいは、「受注 { 製品, 顧客 }」。

 もし、個体 a と 個体 b を「resource」 とすれば、関係 R は、T字形 ER手法では、「対照表」 なのです。言い換えれば、「対照表」 は、「関係の論理」 のなかで、「関係 (あるいは、関連)」 を記述する (指示する) 個体なのです。したがって、「関係の論理」 を前提にして、かつ、命題論理を前提にすれば、「対照表」 は、「2つの個体で構成される個体」 なのです。

 そして、「個体 (entity)」 とは、T字形 ER手法では、「認知番号が付与された」 モノ というのが定義ですから、受注伝票が受注番号を使っていれば、受注も、顧客や製品のように、「個体 (entity)」 です。したがって、関係 R として記述される構成のなかで、認知番号を付与された モノ が (個体 a や 個体 b になって)、「event」 になります。

 しかも、T字形 ER手法は、「個体 (entity)」 を、「resource」 と 「event」 の 2種類の サブセット にする判断基準として、「系列 (非対称性)」 を使っています。「event」 は、時系列のなかで、非対称性を実現しています。そして、関係文法のなかで、矛盾が出ないように、「個体 (entity)」 を、以下のように、排中律を使って定義しています。

 (1) 「内的性質」 として、「取引日」 が帰属する 「個体 (entity)」 を 「event」 とする。
 (2) 「個体 (entity)」 のなかで、それ以外を 「resource」とする。

 
 T字形 ER手法では、「resource」 は、(補集合として扱い、) 「定義されていない」 のです。
 ただし(!)、ビジネス を 「読む」 ときには、「resource」 と 「event」 の定義は、「逆転」します。
 私は、「resource」を重視しています。

 というのは、2つの 「resource」 があれば、1つの 「対照表」 を作ることができるので、新たに作られた 「対照表」 に対して、認知番号を付与すれば、新たな 「event」 を作ることができます。その 「組の構成法」 を使えば、ビジネス (事業過程) を再編成することもできますし、新たな ビジネス を作ることもできます。それを検証するのが、「コンサルタント」 としての私の仕事です。



[ 補遺 ] (2008年12月16日)

 かつてのT字形 ER手法は、2005年に、TM という呼称に変わりました。呼称を変えた理由は、T字形 ER手法の考えかたを変えたからです──ただし、T字形 ER手法でも TM でも、実地に使う テクニック は同じです。テクニック が変わっていないにもかかわらず、どうして 「考えかた」 が変わったのかと訝 (いぶか) しく思われるでしょうが、T字形 ER手法の考えかたでは、或る現象を説明しきれなかった。その現象とは 「関数の合成 (あるいは、ファンクター [ 関数のクラス ]) を使わなければ説明できない現象で、形式的構成では、多値関数の AND 関係となる 「one-header-many-details」 構成 (以下、「HDR-DTL」) です。「HDR-DTL」 を整合的に説明するには、クラス 概念を導入したほうがいいことが明らかになったので、TM は、(セット 概念を前提にしつつも、) クラス 概念を導入しました。

 「HDR-DTL」 構成の説明のほかに、TM は、T字形 ER手法に較べて、説明法が数学的に整えられました。その ひとつが、(本 エッセー では、entity を 「関係の対称性・非対称性」 の観点で説明していますが、) 位相的構造・順序的構造の観点に立って entity (の類別──すなわち、「event」 および 「resource」) を 「閉包」 「外点」 および 「特性関数」 を使って説明するようになったことです。つまり、「event」 を 1つの閉包として考えて 「全順序」 の特性関数を導入して、その外点として 「resource」 を その特性関数に足したときに 「全順序」 が崩れるので、「event」 の特性関数 (全順序、すなわち 「関係の非対称性」) と 「resource」 の特性関数 (「半順序」、すなわち 「関係の対称性」) を べつべつに考えるというふうに説明するようになりました。

 TM は、T字形 ER手法に較べて、数学的概念を使うことが多くなったのですが、いっぽうで、構文論と意味論を強く意識するようになったのも変更点の ひとつです──たとえば、「(導出的な) L-真」 概念・「(事実的な) F-真」 概念の導入など。「F-真」 概念は、「対照表」 の性質を判断する際に役立つ概念です。そして、「F-真」 を重視するようになったので、真理条件として 「T-文」 の テスト を重視するようになりました──すなわち、「言明 p が 『真』 であるのは、時刻 t において、事態 q と対応するとき、そして、そのときに限る」 という 「T-文」 が意味論的な役割を担うことになりました。TM は、以下の体系として整えられました。

             指示関係(F-真)
     ┌─────────────────────┐
     ↓                     ↓
   現実的事態       語彙 ←──────→ 文 (構成)
                ↑   文法(L-真)  ↑
               意義          意味
                ↑
               合意

 この体系のなかで、語彙を前提にして構成される 「文」 には、以下の 2種類が存在します。

 (1) entity
 (2) さらに、entity を前提にして構成される オブジェクト

 そして、entity が本文で述べたように、集合的性質として、「event」 と 「resource」 に類別されます。





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