2004年12月 1日 作成 モデル (対称性 と 移行性) >> 目次 (テーマ ごと)
2009年 1月 1日 補遺  


 
 現実の世界を、モデル 化しようとすれば、以下の 2つが対象となります。

 (1) 現実の世界
 (2) モデル 化された構造

 まず、モデル は、「構造」 を記述しますから、「構造」 のなかでは、「モノ と関係」が記述されます。
 「モノ と関係」を考える際、以下の 2つの立場があります。

 (1) モノ を定義する。
 (2) モノ を定義しないで、モノ を一義にできる アルゴリズム を記述する。

 モノ は、そもそも、定義できない。
 たとえば、時計を考えてみても、時計そのものが モノ なのか、時計を構成している針だとか文字盤だとか リューズ が モノ であって、時計は 「構成物」 にすぎないのか、あるいは、針も、材料としての真鍮が モノ であって、針は 「加工物」 にすぎないのか、、、ついには、モノ が、波動なのか粒子なのか、という点まで遡ってしまい、モノ を定義しようとしたら、無限後退に陥ってしまいます。

 モノ を変数とすれば、まず、1つの集合 (モノ の集まり) を考える際、その集合の メンバー であるかどうか、という点が確認されないければならない。つまり、数学的には、「a ∈ A」 であるかどうか、という点を考えなければならない。

 次に、1つの集合のなかで、2つ (以上) の変数があれば、その 2つが同じなのかどうなのか、という点を確認しなければならない。つまり、数学的には、「x = y」 なのか 「x ≠ y」 なのか、という点を考えなければならない。

 以上の 2点が確認されていなければ、或る集合のなかから、「任意の」 変数を選ぶことができない。

 さて、1つの集合と (その集合のなかに帰属する) メンバーが わかれば、次に考えなければならない点は、それらの メンバー のあいだには、「並び」 が成立するのかどうか、という点です。つまり、メンバー のあいだには、ならかの関係があって、その関係に従えば、、メンバー を並べることができるかどうか、という点です。

 モノ を規則的に並べる際、いちばんに簡単なやりかたは、自然数 (あるいは、素数) を使って、自然数 (ただし、「序数」 として考えて、first, second, third,...) と モノ を 「1対1」 に対応すればよいでしょう。そうすれば、「先行・後続」 関係が、規則正しく記述できます。したがって、数学的には、モノ を定義しないで、モノ を変数として扱って、或る構造のなかで、モノ の占める 「座標」 を考えます。

 この数学的構造が、関係を、確実に記述する簡単なやりかたです。
 1つの集合のなかでは、コンピュータ の データ でも、なんらかの キー を使って、メンバー を並べるのが、ふつうです。

 1つの集合のなかで、メンバー を並べましたが、2つ (以上) の集合のなかから、それぞれ、メンバー を選んできて、或る関係を考えることもあります。つまり、或る集合のなかから、メンバー を 1つ選んで、さらに、ほかの集合のなかから、メンバー を 1つ選んで、それらの メンバー のあいだに成立する 「関係」 を考えることもあります。
 数学では、それぞれの集合 (空集合ではない) のなかから、それぞれ、メンバー を、1つずつ、選んで、「並べたら」、集合になる、というふうに考えます。この考えかたを 「選択公理」 と云います。
 つまり、数学では、「構成」 は、つねに、「並び」 を考えていなければならない。

 さて、「並び」 というのは、(前回、述べた) 対称性という観点から考えてみれば、「非対称性」 を示す関係です。
 たとえば、a と b という メンバー がいて、R (a, b) では、関係 R は、「(a は、b に対して) 小さい」──あるいは、逆に、「(a は、b に対して) 大きい」──という関係が、「並び (全順序)」 の関係です。つまり、「a < b」──あるいは、「a > b」──です。さらに、3つ (以上) の メンバー では、「並び」 として、以下の関係が成立します。

   a < b かつ b < c ならば、a < c.

 この関係を、「移行性」 と云います。つまり、全体としては、「a < b < c」 という関係ですね。
 つまり、「並び (全順序)」 というのは、非対称性かつ移行性を示す関係です。

 さて、現実の事業過程を対象にして、事象の 「並び」 を記述するには、関係 R として、どのような述語を使えばよいか、という点を考えてみてください。たとえば、「出荷」 と 「請求」 を並べるには──つまり、R ( 出荷, 請求 ) とするためには──、どのような述語を関係 R として使えばよいか、という点を考えてみてください。
 T字形 ER手法では、(事象が起こった) 「取引日」 を使いました。「取引日」 を使って、移行性を示しています。



[ 補遺 ] (2009年 1月 1日)

 数学上、「順序」 とは、以下の 3点を満たしている状態を云います。

 (1) x = x.
 (2) x ⊃ y かつ y ⊃ x なら、x = y.
 (3) x ⊃ y かつ y ⊃ z なら、x ⊃ z.

 したがって、かならずしも、「線型順序」 でなくてもよいということです──たとえば、集合のあいだの包摂関係は 「線型順序」 にならないのですが、集合を並べることができます。以上の条件を充たす並びのことを 「半順序」 と云います。さらに、「≦」 という大小関係を導入して 「線型順序」 にした並びのことを 「全順序」 と云います。

 集合は、なにかしらの物の集まりですが、集合に対して 「構造」 を導入することができます。数学上、「構造」 は、以下の 3つがあります。

 (1) 代数構造
 (2) 順序構造
 (3) 位相構造

 以上の 「構造」 のなかで どれか 1つが成立するというのではなくて、「1つ以上」 の 「構造」 が同時に成立することもあります。かつてのT字形 ER手法では、「event と resource」 を順序構造 (関係の対称性・非対称性) の観点で説明していたのですが、TM (T字形 ER手法の改良版) では、順序構造のほかに位相構造を使って説明するようになりました。すなわち、まず、ひとつの 「閉包 (closure)」 を考えて──この 「閉包」 を 「event (行為、できごと)」 として──、その特性関数 (元を並べる関数) を考えます。この特性関数は、「全順序」 です。そして、次に、「外点 (exterior point)」 を考えて──この 「外点」 を 「resource」 として──、「event」 の特性関数に対して 「外点」 y を足してみます。すなわち、以下の関数を考えてみます。

  ( x1, x2, ・・・, xn, y ).

 このとき、「全順序」 が崩れます──言い換えれば、y は 「閉包」 の最大値にはならない。したがって、「event」 の特性関数 (全順序) と 「resource」 の特性関数 (半順序) がちがう、ということです。
 「関係の対称性・非対称性」 は、特性関数がちがうということと同じ意味ですが、T字形 ER手法では、その点にまで思いが至らなかったので、特性関数の観点に立って説明できていなかった。T字形 ER手法を TM に変更したときに、TM の体系を以下のように整えました。

             指示関係(F-真)
     ┌─────────────────────┐
     ↓                     ↓
   現実的事態       語彙 ←──────→ 文 (構成)
                ↑   文法(L-真)  ↑
               意義          意味
                ↑
               合意

 そして、「関数」 という概念を使って説明するようになりました。すなわち、上述の体系を以下のように説明するようになりました。

                  (F-真)
  ┌──────────────────────────────────┐
  │                                  │
  │         ┌───────┐                │
  │         │       │                │
  │        ─┘       └─               ↓
  y (形式的構造) ←    f    ← x (語彙) ← 「情報」 ← 現実的事態
           ─┐ (L-真)  ┌─
            │       │
            └───────┘

 形式的構造を関数で説明するようになったので、「event および resource」 概念も関数を使って説明したほうが良い (首尾一貫する) と判断した次第です。





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