2005年11月 1日 作成 2項関係と、有向 グラフ の辺 >> 目次 (テーマ ごと)
2009年12月 1日 補遺  


 
 集合論では、集合 A の メンバー a と集合 B の メンバー b が、条件 p を満たすとき、これらの メンバー は 「p の関係にある」 といい、apb というふうに記述します。言い換えれば、p の関係にある メンバー の 対 (a, b) は、A × B の部分集合として考えることができます--つまり、p = { (a, b) | apb }.

 いくつかの集合 A1, A2,..., An の 「直積」 A1 × A2 × ... An の部分集合のことを n 項関係 といいます。n 項関係は、2項関係として、記述できることが証明されています (証明省略)。すなわち、直積 A × B の部分集合 R を、A から B への 2項関係──あるいは、単純に、関係 (relation)──といい、aRb と記述します。そして、A から A 自身への関係を 「A の上の関係」 といいます

 2つの個体 (項) が等しいという関係は、2項関係です。「等しいという関係」 は、次のような性質をもっています。

 (1) 任意の a について、a = a. (反射的)
 (2) a = b → b = a. (対称的)
 (3) a = b ∧ b = c → a = c. (推移的)

 この 3つの性質をもつ 2項関係のことを 「同値関係」 といいます。

 1つの集合 A に対して、その部分集合の族 π (集合を メンバー とする集合のこと) が、以下の条件を満たすならば、π を A の 分割 (partition) とか 類別といいます──ここでは、S と T という部分集合を考えてみます (なお、φ は 「空集合 (メンバー がいないこと)」 を示します)。

    S ∈ π ∧ T ∈ π ∧ S ≠ T ∧ S ∩ T = φ.

 分割 (類別) の メンバー である集合 (S および T) のことを、ブロック (あるいは、類) といいます──したがって、類には、交わりがない。さて、以上のように考えれてみれば、A と S (あるいは、T) は、同値関係であって── 1つの集合と集合族の関係であって (言い換えれば、1つの集合を区切ったのであって)、「親子関係」 ではない点に注意して下さい。「セット と サブセット」 の関係を、図式的には、階-構成として記述するので、往々にして、「親子関係」 と混同されているので注意して下さい。

 
 2項関係を図的に記述した構造を 「有向 グラフ」 といいます。
 V (ただし、空ではない有限集合とします) と、「V の上の関係」 (V × V) の部分集合 E を考えて、V と E の対 G (V, E) のことを 「有向 グラフ (directed graph)」 といいます。 V の メンバー を 「頂点」 といい、E の メンバー (u, v)──つまり、関係 (u, v) のこと──を 「辺」 といいます。すなわち、G は、V 上の 2項関係 E のことです

 有向 グラフ は、2つの頂点と、それらの辺 (「道」 ともいいます) として作図できます──たとえば、頂点 u と頂点 v が作る辺 (u, v) を、頂点 u から頂点 v に向かって矢印 → を作図します。

             u ──→ v

 
 頂点の数が p で、辺の数が q である有向 グラフ のことを、「(p, q) 有向 グラフ」 といいます。そして、p を G の位数 (order) といい、q を size といいます。たとえば、G = ( {a, b, c}, { (a,b), (a, c) } ) は、(3, 2) 有向 グラフです。

             a ──→ b
              │
              │
              ↓
             c

 
 なお、辺 (a, a) を 「ループ」 といい、「ループ」 を除いた構造を有向 グラフ ということもあります

            ┌───┐
            │   │
         (a,a)     │
            ↑   │
            └───┘

 
 次回は、単純道、基本道、閉道について述べてみます。



[ 補遺 ] (2009年12月 1日)

 本 エッセー では、以下の基本概念を確認しています。

 (1) 関係 (直積集合の部分集合)
 (2) 同値類
 (3) 分割・細分 (あるいは、切断)
 (4) 有向 グラフ

 これらの概念は、以下の対比で習得したほうがいいでしょう。

 (1) セット (集合) と サブセット (真部分集合)
   (あるいは、同値類と切断)

 (2) 関係 [ 2項関係 ] と有向 グラフ

 2項関係が有向 グラフ で図示できることは理解しやすいでしょうが、同値類の分割・細分は理解しにくいかもしれない。ただ、同値類の分割・細分は、事業過程を対象にした集合において非常に重要な技術になるので──事業過程では、ひとつの管理対象 (集合) に対して、ひとつ以上の 「区分 コード」 が適用されている事態として現れ、集合の妥当性を検証するための重要な技術になるので──、補足しておきます。たとえば、{ 従業員番号、従業員名称、・・・、従業員区分 コード } のような構成を想像してもらえばいいかもしれない。

 さて、まず、「類別 (切断) のしかたは一通りしかない」 ことを覚えてください。以下に それを証明しますが、証明する前に、「反射的・対称的・推移的」 を確認しておきます。本 エッセー では、a は b に対して関係 R にあることを aRb として記述しましたが、「補遺」 では、以下の記述を使います。

    a 〜 b (R)

 「反射的」 というのは、a 〜 a (R) のことです。つまり、a は a 自身と つねに R の関係にあるということ。「対称的」 というのは、a 〜 b (R) で、かつ、b 〜 a (R) のことです。たとえば、「直線 a は直線 b に対して平行である」 ということは、a // b として記述でき、そのとき、「直線 b は直線 a に対して平行である (b // a)」 になるから。「推移的」は、たとえば、a // b で、かつ、b // c ならば、a // c ということ。これらの 3つの性質──正式には、反射律・対称律・推移律──を満足する 2項関係を 「同値律」 を満足するというふうに云います。このような 2項関係が ふたつの メンバー のあいだに成立するとき、この 2つの メンバー は同値であるといい、a 〜 b (R) と記述します。

 さて、集合 M のあいだに同値律を満足する 2項関係が定義されていて、M のなかの メンバー a1 を選んで a1 と同値な メンバー a 〜 x (R) となるような すべての x を K (a1) で表します。そして、K (a1) に属さない メンバー a2 が存在しているとき、a2 と同値な メンバー の集合を K (a2) で表します。このときに、K (a1) と K (a2) は、共通部分をもたない。以下、それを証明します。

 もし、K (a1)にも K (a2) にもふくまれる メンバー b が存在すれば、a1 〜 b, a2 〜 b (R) となるでしょう。そこで、対称律によって、a1 〜 b, b 〜 a2 (R) となって、さらに、推移律によって、a1 〜 a2 (R) となって、「仮定に反する」。

 事業過程では、「区分 コード」 が 1つの集合を切断する規準として使われています。「従業員」 という集合において、「従業員区分 コード」 が、たとえば、「正社員」 と 「パート」 を切断する目的で使われています。「正社員」 と 「パート」 には、共通する メンバー はいない。さて、ここで問題になるのは、1つの集合に対して、複数・多数の区分 コード が適用されている場合です。すなわち、切断において、いくつかの 「階」 が生じる事態です。この点については、拙著 「赤本」 88ページ・89ページ および拙著 「いざない」 104ページ・105ページ を参照してください。





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