2007年11月 1日 「理論編-4 個体の一意性」 を読む >> 目次に もどる
2012年10月16日 補遺  


 「理論編-4」 で以下の 2点を まとめました。

 (1) 指示関係 (写像と 「合意 (規則)」)
 (2) ホワイトヘッド 氏の形而上学 (自然科学が扱う対象)

 いずれも、TM の根底の考えかたに影響を与えた点です。

 まず、指示関係では、TM は、当初、写像の考えかたを前提にして作られたのですが、写像の考えかたを捨て、「合意 (規則に従うこと)」 概念を意味論の前提に置きました。
 TM は、以下の手続きで モデル を作ります。

 (1) 「真とされる集合」 を作る。
 (2) 「真とされる集合」 に対して、生成規則を適用して、「L-真」 を構成する。
    (構文論で モデル を作る。)
 (3) 「L-真」 の構成に対して、指示規則を適用して、「F-真」 を験証する。
    (意味論で モデル を推敲する。)

 さて、最初に作られる 「真とされる集合」 に関して、コッド 関係 モデル は 「属性値集合 (セット)」 を考えたのですが、TM は 「entity」 概念を使いました。すなわち、関係 R (a, b) において、コッド 関係 モデル は、個体 (a と b) として属性値集合を考えて、R として構成される タプル (a, b) を 「主体集合」 として考えましたが、TM は、まず、「主体 (個体)」 を認知します。いずれであれ、実 データ が存在しているので、事実的な存在なのですが、「性質 → 主体」 として関係主義で統括するか、それとも、「主体 → 性質」 として、実体主義で認知するか、という正反対の接近法です。

 実体主義的接近法で やっかいな点は、「個体 (主体)」 を定義できないという点です。そこで、TM は、認知番号 (個体指示子) として、コード 体系のなかに定義されている管理番号を使って、事業過程・管理過程で 「合意された」 対象として 「entity」 を定義しました。

    entity である = Df 認知番号が付与されている管理対象である。

 ただし、(entity に帰属する) 性質 [ アトリビュート ] には 「実 データ」 が存在するのですが、争点になるのは、たとえば、「サイズ・コード」 という認知番号を付与されている対象が、「現実的事態」 のなかで指示できるかどうか、という点です。言い換えれば、「1 メートル」 という記述と 「... の時間に ... の所に存在する個体 a の長さ」 という記述は、そもそも、役割が原理的にちがう、という点です。すなわち、「サイズ・コード」 で記述された個体には、「現実的事態」 のなかで、指示関係をもつ対象がないということです。したがって、ここで云う 「真とされる集合」 は、「合意された認知」 のなかで 「実 データ」 として存在しているという意味であって、事業過程のなかで起こる 「現実的事態」 との指示関係ではないという点に注意して下さい。

 「真とされる集合」 に対して生成規則 (TM の関係文法) を適用して 「L-真」 を構成します。「L-真」 は、「真とされる集合」 を前提にして導かれる--かならず、構成文法どおりに正しく導かれる--という意味の 「真」 概念です。言い換えれば、個人の恣意性を排除して、「不意打ち」 のない構成を実現した 「真」 なので、かならず、構成手順を辿ることができ、「証明可能性」 を実現しています。

 さて、構成された 「L-真」 構成のなかには、「(事実的な) F-真」 が存在します。たとえば、銀行を例にして、「支店 コード」 を付与された 「支店」 entity は、「F-真」 ではないけれど、「L-真」 として構成された 「銀行. 支店. 対照表」 は、「現実的な支店」 を指示する 「F-真」 です。したがって、「銀行. 支店. 対照表」 は、実装しなければならない構成表です。

 私は、「(導出的な) L-真」 と 「(事実的な) F-真」 を使いましたが、先走ってしまいました。これらの概念は、「理論編-7」 で出てくる概念です。「理論編-4」 では、こららの 「真」 概念に至る伏線として、「指示関係」 と「合意」 概念を検討して、「指示する」 という行為には、「現存する個体 (... の時に ... の所に存在する個体)」 と 「反復する抽象的な事物 (合意・規約で認知される個体)」 の 2つがあることを確認しています。

 さて、前述した 「サイズ (寸法)」 は 「現実的な個体」 を指示しないのですが、「合意」された管理対象 (entity) として管理番号を付与されています。TM は、「entity」 を、さらに、「event」 と 「resource」 に分類しています。

    event である = Df 性質として 「日付」 が帰属する entity である。

    resource である = Df event 以外の entity である (「event」 の補集合)。

 TM の 「entity」 概念を検討するために、私は、ホワイトヘッド 氏の哲学を参考にしましたので、かれの考えかたを本編で まとめた次第です。かれは、「自然科学が取り扱う対象」 として、以下の 4つを考えていました。

  (1) 持続する現実的な事物
  (2) 生起する現実的な事物
  (3) 反復する抽象的な事物
  (4) 自然法則

 前述した 「サイズ」 は、(3) ですね。TM で云う 「event」 は (2) です--それ以外が 「resource」 です。
 TM では、「entity」 は 「合意・規約で認知された事物」 ですが、さらに、「entity」 を前提にして生成規則を適用して構成された物--すなわち、「集合値をもつ オブジェクト」--のなかにも、「現実的事態」 を指示する--したがって、「真」 となる--物が存在します。TM を説明する前に、前提知識として、本編で それら (「合意・規約で認知された事物」 と 「現存する物」) を解説した次第です。

 ちなみに、私は、「赤本」 の 「はしがき」 のなかで、以下の文を綴りました。

    「ことばの意味」 が 「合意・同意・規則 (事業過程に関与している人たちが同じ 『反応と適用』 を示せば、
    『ことばの意味』 が成立している)」 という考えかたを前提にしていれば、記号と単語の間に指示関係
    (真理条件) を適用することに対して、筆者は躊躇 (ためら) いはない。

 この文が意味しているのは--ただし、この文のなかで 「単語」 という ことば は間違いであって、「事実的事態」 が正しいのですが--、「まず、『合意』 された認知対象を entity として考えて、entity に対して生成規則を適用して 「L-真」 を構成して、「L-真」 構成に対して、改めて、「F-真」 (真理条件) を験証する」 手続きのことです。 □

 



[ 補遺 ] (2012年10月16日)

TM を バージョンアップ (TM2.0) する事を前回の補遺 (2012年10月 1日付) で述べました。TM2.0 では、entity という概念を排除します。その代わりに、「主題と条件」 という考えかたを導入します。すなわち、「T之字」 を次のような構成とします。


   ┌─────────────────┐
   │                 |
   ├────────┬────────┤
   │主題      │条件1      │
   │        │   ・    │
   │        │   ・    |
   │        │   ・    │
   │        │条件n      │
   └────────┴────────┘

 すなわち、entity 概念を捨てて、「T之字」 の構成には数学的接近法──物を一意にする アルゴリズム がある [ 条件を定立して物を指示する ] やりかた──を導入して、一つあるいは複数・多数の条件が どのような主題に関して定立されているのかを示す図式とします。言い替えれば、TM2.0 では、いっそう数学的接近法 (純正な形式化) を強くします。したがって、TMD (TM Diagram) は、事業分析、データベース 設計あるいは オブジェクト 設計の原資料として使う事ができる 「抽象 データ 型 モデル」 図です。

 Entity 概念を排除するので、TM が従来定義してきた 「event と resource」 は、「並び」 (関数) を基本にした特性関数の考えかた──全順序で並ぶ項と半順序で並ぶ項という切断──を重視します。

 そして、「みなし entity」 および 「(概念的) スーパーセット」 は、クラス 概念として統一します。

 ただ、オントロジー 的概念 (event と resource) は、事業過程を説明するためには便利なので、「event (出来事、行為)」 を基底にして、それらに関与する事物 (continuance、継続的状態)──TM2.0 では、「resource」 という語を排除したい──という考えかたは (形式的構造を読む時には) 今まで通りに使います。





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