2007年11月16日 「理論編-5 意味と意義」 を読む >> 目次に もどる
2012年12月 1日 補遺  


 「理論編-5」 では、「論理的意味論」 の入口として、フレーゲ が示した 「意味と意義」 を まとめました。

 フレーゲ が示した 「明けの明星、宵の明星」 の例は、ロジック の書物で、「名指し」 に関して、多々、引用される例です。「明けの明星、宵の明星」 が 「意義」 で、「金星」 が 「意味」 です。フレーゲ が示した 「意義と意味」 は、カルナップ 流に言えば、「表現関係と指示関係」 です。

 意味論には、「記述的意味論」 と 「論理的意味論」 があります。「記述的意味論」 では、フレーゲ の言う 「意義」 が 「意味」 とされています。たとえば、データベース 設計で、「再帰」 構成がありますが、部品 を例にすれば──もし、「再帰」 構成が 「親子関係」 であれば──、「記述的意味論」 では、「親部品、子部品」 という言いかたをします。TM (T字形 ER手法) は、「論理的意味論」 の モデル なので、そういう言いかたをしないで、以下のように記述します。

    (部品番号 (R)、部品番号 (R)).

 「再帰」 構成ですから、部品番号の並びは、順序対 (ordered pair) です。
 この記述法を、「方法論が未熟だから、そういう記述になっているのであって、正しい記述は、『親部品番号、子部品番号』 でなければならない」 と言ったひとがいましたが、「論理的意味論」 を理解していないのでしょうね。「論理的意味論」 では、「意味」 を 「指示関係」 のなかで考えます。したがって、「(事実的な) F-真」──この例では、部品番号を付与されている 「部品」 の集合 (セット)──を前提にして導出された構成は、つねに、「指示」 を問われます。下記に述べることは、次回の 「理論編-6」 で まとめたのですが、「論理的意味論」 の モデル は、以下の 2点を実現していなければならないでしょうね。

  (1) すでに導入された記号を前提にして、文法的 (構文論的) に正しい生成規則を適用して
    導出された記述は、すべて、事実上、なんらかの対象を 「指示」 していなければならない。

  (2) いかなる記号も、それに対する 「意味」 (指示) が保証されることなしに、新たに、固有名
    (記号) を導入されることはない。

 したがって、「再帰」 構成を記述した (部品番号 (R)、部品番号 (R)) は、それらの原則を守って、「指示関係」 をあらわしています。逆に、「論理的意味論」 から観れば、「親部品、子部品」 のなかの 「親子」 というのは、「関係」 に対して付与した名称であって──すなわち、「明けの明星、宵の明星」 は 個体 「そのもの-の」 を指示する語ではなくて、「... に対して」 という関係 (たとえば、金星と太陽との関係) のなかで成立する事態に付与した名称であって──、「指示」 ではない、と言うことができます。

 「理論編-5」 で私が訴えたかった点は、「第二世界 (認識主体)」 の描く 「像」 を抹殺して──言い換えれば、「第二世界」 と 「第三世界」 とのあいだの 「表現関係」 を排除して──、「論理的意味論」 として、「第三世界 (モデル)」 と 「第一世界 (現実的事態)」 のあいだの 「指示関係」 を重視した点です。 □

 



[ 補遺 ] (2012年12月 1日)

 「第一世界 (現実的事態)」 と 「第三世界 (モデル)」 は、写像上の関係にあると云っていいでしょう。そして、論点となるのは、「第一世界」 の中のいかなる事物・事態を モデル として写像するのかという点です。「第二世界 (認識主体)」 を ユーザ として考えれば、「第一世界」 は実際に営まれている事業であり、「第三世界」 はその事業を営むために ユーザ のあいだで申し送りされる 「情報」 と考える事ができるでしょう。そして、システム・エンジニア は、ユーザ が構成した 「第一世界」 「第三世界」 を分析する事になります。従って、システム・エンジニア は、ユーザ が構成した 「第三世界」 を 「論理」 で分析する事になります。すなわち、ユーザ が使っている語を 「記号」 とみなして、システム・エンジニア は 「論理」 を使って記号を演算する事になります──「記号」 が伝えている 「意味」 (真とされる値) の構成条件を構造 (有向 グラフ) として記述します。すなわち、モデル とは、或る無矛盾な論理 (例えば、集合論と述語論理) に従って構成された構造です。故に、モデル では、構文論 (文法、計算規則) が先で、意味論 (値の真偽) は後です。モデル は、「意味」 の構成条件を明らかにする技術です。構成条件は、次の 2つの 「真」 が実現されてはじめて真とされます。

  (1) 妥当な構造 (構造が無矛盾である事)

  (2) 真とされる値 (充足される値が実存する事)

 カルナップ 氏の用語を借用すれば、(1) を 「導出的な真 (L-真)」 と云い、(2) を 「事実的な真 (F-真)」 と云います。(1) はユーザ 言語を 「記号」 とみなした演算の論理的帰結であり、(2) はその論理的帰結を 「現実」 と対比した験証です。ユーザ がどういう語を使うかは、ユーザ のあいだ (情報伝達網の中) で合意されていなければならないでしょう──それらの語には 「意味」 が付帯しています (その意味を充足する値ではない事に注意されたい)。文脈の中で語が持つ意味の事を meaning と云い (表現関係)、その語が実現している値 [ その語に充足される真とされる値 ] を sense と云います (指示関係)。カルナップ 氏は、意味関係が表現関係と指示関係の二つで構成される事を指摘しました。モデル では、当然ながら、これらの関係 (表現関係と指示関係) を曖昧にしてはいけない。故に、モデル の作成手続きは、次の様になります。

   合意された語彙 → L-真の構成 → F-真の験証





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