2008年 3月16日 「理論編-13 集合的と周延的」 を読む >> 目次に もどる
2013年 4月 1日 補遺  


 本編では、「集合としての性質 (集合的)」 と 「個体としての性質 (周延的)」 を確認しています。

 数学 (集合論) では、「集合」 は、セット 概念として示されています。セット 概念を示した公理系が 「ZF の公理系 (ツェルメロ=フレンケル の公理系)」 です。ZF の公理系は、以下の特徴をもつ公理系です。

 (1) 等号 (=) をふくむ第一階術語論理を使って形式化されている。
 (2) 9つの公理をもつ形式的体系である。
 (3) ∈ 以外の術語を使わない。

 9つの公理とは、以下を云います。

 (1) 外延性公理
 (2) 対の公理
 (3) 和集合の公理
 (4) ベキ 集合の公理
 (5) 空集合の公理
 (6) 無限集合の公理
 (7) 分出公理 (部分集合の公理)
 (8) 置換公理
 (9) 正則性の公理

 「セット」 概念の特徴になっている公理が 「分出公理 (部分集合の公理)」 です。すなわち、いきなり、巨大な集合を考えないで──「集合論」 を作った カントール が巨大な集合を考えたので、集合論のなかに、パラドックス が生まれたために、パラドックス を回避するために、いきなり、巨大な集合を考えないで──、ひとつの集合 (たとえば、a) を介在して、あまり大きくならない集合 (a よりも小さい集合) を ツェルメロ は導入しました。この部分集合の考えかたが 「分出公理」 です。「分出公理」 を第一階術語論理の論理式で示せば、以下の式になります。

    { x ∈ a | A (x) }. (正確に記述すれば、∀a ∃b ∀x { (x ∈ b) ←→ (x ∈ a) ∧ A (x) }.

 つまり、ツェルメロ は、{ x | x ∈ A } の代わりに、{ x ∈ a | A (x) } の形を集合としました。そして、集合 X の メンバー x について、判断 f (x) があって──この f は ∈ という術語ですが──、真を 1 とし、偽を 0 として、真理関数 I = { 0, 1 } をとれば、f は I への関数として考えることができます。そこで、f (x) = 1 となる メンバー を集めれば集合 { x ∈ X | f (x) = 1 } になる、というのが分出公理です。

 ただ、分出公理からは、{ a, b } とか a ∪ b とか集合族を導くことができないので、他の いくつかの ルール を公理化したのが ZF の公理系です。

 ZF の公理系のなかで、私が、特に注目した公理は──「分出公理」 は当然として、ほかに──「対の公理」 でした。「対の公理」 とは、2つの集合 (たとえば、a と b) があれば、その集合を メンバー とする集合 x が存在する、という公理です。つまり、a と b が集合なら、{ a, b } も集合である [ x は、{ a, b } のこと ] ということ。TM (T字形 ER手法) は、この公理を使って、「対照表」 を構成します。そして、「対の公理」 で構成された集合は、unordered pair (「並び」 が問われない) です。

 ツェルメロ の公理系に対して、フレンケル が 「置換公理」 を導入しました。「置換公理」 とは、x ∈ X について、f (x) があるなら、{ f (x) | x ∈ X } は集合になる、ということ。すなわち、ツェルメロ 流の 「和集合」 を 1つの集合として考える、ということです。単純に言い切れば、クラス 概念を セット 概念に流用したと云っても良いでしょう。

 A (u) を任意の集合的論理式とすれば、{ u | A (u) } の存在は、ZF の公理から得られない。 { u | A (u) } のことを、集合 (セット) と区別して、「クラス (class)」 とよびます。そして、{ u | A (u) } を任意の集合論的論理式として──ただし、クラス に対する束縛変更をふくまない論理式としますが──、以下を公理に加えます。

    ∃X ∀u { u ∈ X ≡ A (u) }. (ただし、X は、クラス に関する変数とします)

 この集合論的論理式を導入すれば、セット について── ∈ の代わりに──、「性質」 を語ることができます。そして、「性質」 を語るならば、当然ながら、以下の 2つの性質を考えなければならないでしょう。

 (1) 「集合」 に関する性質
 (2) 「メンバー」 に関する性質

 「集合に関する性質」 を 「集合的」 と云い、「メンバー に関する性質」 を 「周延的」 と云います。
 TM では、この考えかたを 「みなし概念」 のなかで使っています。

 ちなみに、TM の 「関係文法」 を生み出す契機になった公理が 「正則性公理」 です。「正則性公理」 とは、y ∈ x となる すべての y において成立するなら、そして、x でも成立するなら、すべての集合において成立する、ということ。たとえば、自然数 n − 1 について成立して、n でも成立するなら、すべての自然数において成立するということ。
 正確に言えば、「関係文法」 (あるいは、「event と resource」) を生み出す契機になったのは、「正則性公理」 ではなくて──「分出公理」 で範囲を限られた部分集合に対して、さらに、その外側にある集合を考えたときに、「正則性公理」 が適用できるかどうか、というのを考えたのではなくて──、「特徴関数」 「外点」 「閉包」 という点から考えて、或る集合 (event) の特徴関数が、他の集合 (resource) には適用できない、ということに気づいたのが契機でした。もっと正確に言えば、「特徴関数」 「外点」 「閉包」 は、検証のために使ったのであって、「関係文法」 が生まれた直接の原因は、「関係の対称性・非対称性」 という性質そのもの-の検討を通してでした。 □

 



[ 補遺 ] (2013年 4月 1日)

 「集合的」 と 「周延的」 という言いかたは、ここ三年間ほど、使わなくなったなあ。理由はわからないけれど。T之字表記── { 主題, 条件1, ・・・, 条件n } の式を図で表した表記──において、「集合的」 に論じられるのが 「主題」 であって、「条件1, ・・・, 条件n」 は 「周延」 の条件を表しています。「主題」 とは、「受注番号」 や 「商品 コード」 のように、ユーザ が管理している番号・コード です──正確に言えば、「主題」 は、たとえば、「受注番号」 を立てて管理されている 「受注」 の事をいい、「商品 コード」 を立てて管理している 「商品」 の事を云います。

 コッド 関係 モデル は、 { 主題, 条件1, ・・・, 条件n } に対して 「直積」 を使ったのですが、TM は寧ろ 「主題」 のあいだの 「関係文法」 を考えました。つまり、「主題」 (情報点) と 「条件」 (メッセンジャー 点) を切り離して、それぞれ、関数を使いました。その意味では、「集合的」 と 「周延的」 を強く意識しているのですが──「主題」 が 「集合的」 な性質を表しているとは考えないで、管理されている モノ として考えているのですが──、数学的な意味で 「集合的」 な性質ではないので、「集合的」 と 「周延的」 という言いかたをしなくなったのかもしれない。

     主題    条件1, ・・・
    (情報点) (メッセンジャー点)
     |      |
     ↓      ↓
   { 商品 コード, 商品名称, ・・・ }.
     |
   { 受注番号, 受注日, ・・・ }.

 「関係」 は、「主題」 (情報点) に対して適用される関数です。すなわち、{ 主題, 条件1, ・・・, 条件n } に対して適用される関数 (「主題」 を構成する関数) と { 主題1, ・・・, 主題n } に対して適用される関数 (「主題」 のあいだの関数) とを、TM は分けて考えています。





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