2001年 4月30日 作成 | 日本古典文学 (全般): 上級編 | >> 目次 (作成日順) |
2005年11月 1日 更新 |
学校で教わる文法が中古を中心にしているので、上代の文法が手薄になるが、「古事記」 や 「万葉集」 を読むには、上代の文法を勉強しなければならないし、上代の文法は 、無茶苦茶、むずかしい。 そして、上級になれば、「古辞書」 を使う (調べる) ことも、ときどき、ある。 |
▼ 上代の語彙 (および文法) を勉強するための辞書
● 日本古語大辞典 (二巻)、松岡静雄、力江書院 ● 上代語辞典、丸山林平、明治書院 ● 時代別 国語大辞典 (上代編)、三省堂 ● 字訓、白川 静、平凡社 |
[ 読みかた ] (2005年11月 1日)
「上代」 とか 「古代」 と云われている時代が、いつまでの時代を指すのか、という点に関して、いくつかの考えかたがあるが、「平安遷都」 (延暦13年、795年) の頃までを云うようである。古代では、狩猟生活から (水稲耕作を営む) 栽培生活へ生活形態が移行して、共同体的社会が作られ、しかも、血縁関係を重視した氏族的共同体が形成された。そして、氏族的共同体が、次第に、「国家」 (いくつかの共同体が統轄され、小国になって、さらに、いくつかの小国が統一され、「朝廷」 を頂く統一国家が形成される過程) として進化する。
統一国家が形成される過程のなかで、「祭り」 も統轄され、「詞章」 が、次第に、言語表現として整えられ、歌謡や神話が作られる。歌謡や神話は、当初、口頭での伝承 (口伝) を建前としていた。いっぽうで、統一国家が形成され、大陸から漢字が伝来して、歌謡や神話が、文字として記述されるようになった。漢字は、ほかの文化のなかで使われていた語-言語であり、それを、そのまま、適用できないので、(表意文字の漢字を表音的に使用する工夫をして、) 「万葉がな」 が生まれた。 熟田津尓船乗世武登月待者潮毛可奈比沼今者許芸乞菜
この歌が、どのように読み、だれの作であるか、という点は、高等学校の古文で習ったでしょう。 古代国家は、大陸の国家制度を仰いで作られ、「朝廷 (天皇)」 を中核とした律令制度を導入しました。そうした 「国家意識の芽生え」 として、古事記・日本書紀・風土記が、神話・伝記の集大成として作られました。また、歌謡から派生した 「和歌」 が、万葉集として、まとめられました。いっぽうでは、漢詩文も作られ、懐風藻のなかに まとめられています。
国文学を専攻しなかった人たちが、古代文学を 「原文 (上代特殊仮名遣)」 で読むことは、ふつう、しないでしょう。ふつうなら、「現代かなづかい」 として書き下された文を読むでしょう。上代文学を、「文学」 として鑑賞するか、それとも、国語学的に、「日本語の歴史 (成立史)」 として読むか、という点は、読者によって、思いがちがうでしょうね。「原文」 を書き下し文で読もうと思う人は、上述した辞典を揃えなくてもいいでしょう。寧ろ、それぞれの作品に関する上質の研究書を、多数、揃えたほうがいいでしょうね。ただ、たとえば、古事記や万葉集を丁寧に読んでいれば、いずれ、それぞれの語句に関して、詳細な語意を知りたいと思うでしょうし、さらには、セマシオロシ゛- 的に、それらの語意が成立してきた過程を知りたいと思うようになるでしょう、きっと (--ぼくが、そうでしたから)。 上代仮名遣辞典、金田一京助 監修、五十嵐仁一 編、小学館 さらに、上代文学を読むためには、「日本人の精神史」 に関する知識を習得しておいたほうがいいでしょう。文学を社会的・思想的な観点に立って体系的に記述した 以下の書物を読んでください (以下の書物のほかにも、315ヘ゜ーシ゛ に記載した書物を読んだほうがいいでしょう)。 文学に現はれたる我が国民思想の研究 (全8冊)、津田左右吉 著、岩波書店 |
▼ 古辞書 |
われわれ シロート が入手しやすい古辞書を選んでおいたので、古本屋で入手して下さい。 |
● 新撰字鏡 [ 昌平年間に成立。] ● 倭名類聚抄 [ 承平頃に成立。] ● 類聚名義抄 [ 長和から嘉承までの間に成立。] ● 伊呂波字類抄 [ 長寛ころに成立。] ● 下学集 [ 元和三年刊。] ● 節用集 [ 室町時代の中期ころに成立。]
● 日葡辞書 [ 慶長八年(1603)刊。]
● 倭訓栞(上・中・下)、谷川士清 編 |
[ 読みかた ] (2005年11月 1日)
小生は、以上の辞典を、すべて、所蔵していますが、「日葡辞書」 と 「倭訓栞」 を除けば、いままで、それらを辞典として使ったことがない。 国文学の専門家でないかぎり、あるいは、辞書 マニア (好事家) でないかぎり、一般の人たちが、以上の古辞書を所蔵することはしないでしょうね (ちなみに、小生は、「読書案内」 をご覧いただいて想像できるように、「辞書 マニア」 です--笑)。
「日葡辞書」 と 「倭訓栞」 を使うときも、現代の辞典を併用しています。 序文・編者 (本居宣長、谷川士清) から判断して、国学系に偏っているのではないか、と小生は思っていたのですが、専門家 (山田俊雄氏、「世界大百科事典」の収録文) によれば、「所収語の範囲は広く,全体として均衡のとれた穏健な説明がある。見出し語を五十音順 (ただしオ・ヲの所属は現在と異なる) にならべる点では,近世の辞書としては珍しい。」 とのことです。ただ、現代の辞典を併用しないと、和訓栞 (「増補語林和訓栞」) の記述のみでは、現代人 (国文学を専攻しなかった人たち) が語意を理解することはできないでしょう。たとえば、「おかし」 は、以下のように、記述されています。
[ 上段 ]
[ 下段 ]
まず、例文が的確なことに驚きますね--現代の 「糊鋏式な、下手な」 古語中辞典 (古語大辞典の記述を、簡略し転載した、例文の少ない中辞典) に比べたら、「増補語林和訓栞」 のほうが役立ちます。そして、これらの文を読めば、「おかし」 の語感を知ることができるのですが、江戸中期 (そして、増補された明治時代) の研究に比べたら、現代のほうが研究は進んでいますので、かならず、現代の、ちゃんとした辞典を併用して、対応する語句を調べてください。 「増補語林和訓栞」 では、「おかし」 の語意は、「笑うべきである、滑稽である、珍奇である」 としています。そして、「をかし」 の欄では、以下のように記述しています。
[ 下段 ] 「増補語林和訓栞」 では、「をかし」 に関して、枕草子が使っている語意を記載してはいない--「春はあけぼの」 が 「いとをかし」 という意味を、「増補語林和訓栞」 の語意では読めない。「増補語林和訓栞」 の語意が 「おかしい」 ことを、(「読書案内」 のなかで、前回、記載した) 「重要古語小辞典」 は、以下のように、指摘しています。
「をかし」 は中古文学の美的理念の 1つであって滑稽・珍奇なのではない。しかし、「をかし」 と
この「近世の国学者」 というのは、「和訓栞」 の編者であろう、と小生は想像しています。
「をかし」 は 元来 「をこ (馬鹿)」 の形容詞化であり、現代語 「おかしい」 があらわしている感じ
さて、いままで述べてきたことを読めば、古辞書の使いかたが、どうあるべきか、という点を ご理解いただけたと思います。 |
▼ 百科事典 |
● 嬉遊笑覧、喜多村信節 著、文政13年。 [「日本随筆大成」 (吉川弘文館) の別巻 (全 4巻) で入手できる。]
● 守貞謾稿、喜多川守貞 著、嘉永6年。
● 和漢三才図会 [ 正徳二年成立。] |
[ 読みかた ] (2005年11月 1日)
使いかた (読みかた) は、前述した 「古辞書」 と同じ。 |
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