2001年 8月15日 作成 タルスキー を読む >> 目次 (作成日順)
2006年 2月 1日 更新  


 中級編までの文献を読んで数学基礎論の一通りの知識を習得した後に タルスキー (Tarski A.) を読んで下さい。
再度、警告するが、中級編の文献を理解できないなら、タルスキー の文献を読んではいけない。

 タルスキー は真理の対応説と2値論理を使って、「真理」 の定義を追究するために、「形式化された言語における真理概念」 という論文を1933年に発表して、集合 (クラス) 算の言語 (language of the calculus of classes) を扱い、真理の定義可能性を検討し、形式化された言語のなかでは、真理の定義が可能になることもある--メタ 言語が構築できるなら、真理の定義は可能である--ことを証明した。

 タルスキー は、ケ゛ーテ゛ル とはちがうやりかたを使って (数学理論の不完全性について ケ゛ーテ゛ル がやったように 「真っ向から」 扱ったのではないけれど) 真理論研究の副産物として 「限られた範囲ではあるが」 不完全性を証明した。



[ 読みかた ] (2006年 2月 1日)

 真理論は、哲学・論理学・数学・言語学の多岐に亘るので、それを学習しようとしたら、領域の広さを前にしてたじろいでしまうでしょうね。試しに、岩波版 「哲学・思想事典」 で、「真理論」 を調べてみて下さい。そこには、対応説・整合説・定義不可能説と同値 テーセ゛ (および余剰説)・真理定義・合意説が示されています。

 対応説の古典的定式は、アリストテレス が示した 「有るものは有ると語り、有らぬものは有らぬと語ることが、真である」 という主張であり、それを 「精緻」 にしたのが、前期 ウィトケ゛ンシュタイン の写像理論です。写像理論は、以下の主旨です。
 (1) 事実と語が 「1対1」 に対応して、語の配列と事実の配列と、構造上、同型である。(文が事実の写像である。)
 (2) そして、事態が現実に成立しているときである。

 後期 ウィトケ゛ンシュタイン は、対応説を否定して、「使用説」 (合意説の基底になる考えかた) を提示しました。
 いっぽう、タルスキー は、対応説を前提にしながらも、真理規約 (T) を導入して、メタ 言語・対象言語という 「言語の階層」 を使って、同値 テーセ゛ の導出可能性 (翻訳を与える同値式を真理規約から導出できること) を提示しました。

     (T) 「雪は白い」 が真なのは、雪が白いとき、そのときに限る。

 そして、「x が白い」 は、対象が無限列であっても、「充足可能」 であるかどうかが問われることになって、量化 (∀ および ∃) に対応できて、「充足」 関係として考えることができます。この考えかたを、数学上、完全性定理・不完全性定理を使って、コンハ゜クト に説明した テキスト として、前々回 記載した 「数の体系と超準 モテ゛ル」 (田中一之) を読んでみて下さい。
 ちなみに、モテ゛ル が自然数体系と同型であることや--自然数体系との同型を調べるために、或る係数 (ヘンキン 係数、スコーレム 係数、ケ゛ーテ゛ル 係数) を導入することや--、理論 T が モテ゛ル をもつ必要十分条件は、T の任意の有限部分集合が モテ゛ル をもつことや、言語 L の無矛盾な理論は、L の濃度以下 の モテ゛ル をもつことを理解するためには、スコーレム の定理および レーウ゛ァンハイム・スコーレム の定理を知らなくてはならない。数学では、これらの定理は 「常識」 ですが、これらの定理を知らないで、対応説を理解しようとしても、空回りに終わるでしょう。したがって、もし、「真」 概念を知りたいのであれば、一度は、ちゃんと、スコーレム や ケ゛ーテ゛ル や タルスキー を読まなければならないでしょうね。

 整合説は、数学的な無矛盾な公理体系との整合性を主張したのですが、当然ながら、無矛盾な公理体系を複数作ることができるので、「真」 となる体系が 1つにはならないし、無矛盾であっても、不完全性定理が示したように、真とも偽とも判断できない命題が成立します。

 合意説は、基本的には、「合意を 『真理』 とする」 ことを基底にしているのですが、「合意」 に関して、効用説・検証説など様々な提案がされています。後期 ウィトケ゛ンシュタイン は、「意味」 が成立する正当化条件として、「言語 ケ゛ーム」 を提示して、家族的類似性・合意・規則・行為などを提示しました (ウィトケ゛ンシュタイン は、「言語の階層」 を認めていない)。そして、かれの考えかた--「『反応と適用』 が一致していれば、『意味』 が成立しているし、『意味』 は生活様式を前提にしている」 という考えかた--は、後世、哲学・言語学の真理論に影響を与えました。

 ぼくは、数学・論理学・哲学・言語学の専門家ではないので、それぞれの真理論が どのように承認されているのかという点を判断できるほどの知識はないのですが、それらの領域の文献を読んでいたら、数学では--「命題」 としての文を対象にしている領域では--、対応説が有力であり、「自然言語」 を対象にしている領域では合意説が有力であるように感じています。
 ちなみに、以上に記述したように、ぼくが、ウィトケ゛ンシュタイン の哲学を基底にしながらも、ケ゛ーテ゛ル と タルスキー を読んだ理由を想像できるでしょう。

 




 

 ▼ 以下の入門書を読んで、タルスキー を読む準備をすればよい。

 ● 現代真理論の系譜、山岡謁郎、海鳴社
  [ ケ゛ーテ゛ル、タルスキー からはじまって、クリフ゜キ に至るまでの真理論研究を概説してある。]
  [ 付録として、タルスキー の証明 (集合算公理系の不完全性の証明) が概訳されてある。]

 ● ケ゛ーテ゛ル の不完全性定理、レイモント゛・スマリアン 著、高橋昌一郎 訳、丸善
  [ ケ゛ーテ゛ル のやりかたを平明に紹介してあり、タルスキー のやりかたも、わかりやすい形にして紹介してある。]

 



[ 読みかた ] (2006年 2月 1日)

 「タルスキー を読む準備をするために」 この 2冊を読んで下さいと言っていますが、この 2冊が威力を示すのは、タルスキー の原文を読んだあとかもしれない。或る学問領域を、はじめて、学習する際、「道しるべ」 として概説書を読まなければならないけれど、概説書は起点であると同時に (研究領域を系統立ててまとめた) 終点でもあるので、概説書を一読しても理解できないというのが、いつもの読後感です。特に、「真」 概念という、およそ、あらゆる判断の根本になる概念を学習する際には、なおさら、その読後感を痛感します。ウィトケ゛ンシュタインは、以下のように言いました (前回も引用しました)。

    いかに奇妙に思われようとも、ケ゛ーテ゛ル の不完全性定理に関する私の課題は、ただ単に、「これは証明可能で
    ある、と仮定せよ」 といった命題は数学においては何を意味するのか、ということを明確にすることであるように
    見える。

 かれは、「意味」 の成立という観点から、数学の 「前提」 を検討しています。そして、かれは、タルスキー の考えかた (対応説) を否認しています--かれ自身、前期では、対応説の典型である写像理論を提示していましたので。ウィトケ゛ンシュタイン が、タルスキー を否認した理由は、以下の点にあったのではないでしょうか。

  (1) 「真」 の ハ゜ラト゛ックス を回避するために導入された 「言語の階層」 説
  (2) 「言語の階層」 説を前提した同値 テーセ゛ の導出可能性

 これらは、(「無限」 を前提にした) 数学 (あるいは、述語論理の完全性) では、「構造」 を検討する際、有力な考えかたなのですが、ウィトケ゛ンシュタイン は 「無限」 を認めなかった。そして、もし、「無限」 を前提にするのであれば、いかなる 「前提」 が導入されるのか (仮定されるのか) という点を かれは調べていたのだと思います。実際、かれは、数年ほど (2年間か 3年間ほど)、数学基礎論を研究していました。

 ぼくは、合意説を信奉していますが、対応説を否認していない。というのは、「無い物を有る」 というふうに主張することは虚構であって、直観的理解として納得しがたいという思いがあるので。そして、概念的構成物に対しては--たとえば、物体色を対象にして、それらを一般化して 「色 (あるいは、カラー・コート゛)」 という概念的構成物を考えて--関数 f あるいは関係 R を技術的に導入できたとしても (対応説を技術的に導入できたとしても)、それが成立するためには合意説を援用しなければならないと考えています。

 さて、「無矛盾な体系であっても、無矛盾のなかで、真とも偽とも判断できない命題が成立する」 ことをケ゛ーテ゛ルが証明して、タルスキー が言語階層を導入して、「真」 という概念は、対象言語のなかで定義できない--対象言語に対する メタ 言語のなかでしか定義できない--ことを示して、カルナッフ゜ が 事実的な 「F-真」 と導出的な 「L-真」 を提示しました。それらの真理論の流れを、前掲書 「現代真理論の系譜」 (山岡謁郎) が コンハ゜クト にまとめています。「真」 概念を調べるためには、極めて役立つ書物なのですが、もし、ケ゛ーテ゛ル・タルスキー・カルナッフ゜・クリフ゜キ の書物を読まないで、この書物を読んだら、理解しにくいかもしれない。「現代真理論の系譜」 (山岡謁郎) を読んだら--あるいは読む前に--、かならず、ケ゛ーテ゛ル・タルスキー・カルナッフ゜・クリフ゜キ の原文を読んで下さい。

 また、「ケ゛ーテ゛ル の不完全性定理」 (レイモント゛・スマリアン) は、ケ゛ーテ゛ル の定理と タルスキー の定義を、逐語的に読み下した書物ではなくて、その後の研究成果を取り入れて、不動点定理・カテコ゛リー 概念を使った 「存在証明」 を基本にしているので、読みやすい。ただし、この書物を読んで、ケ゛ーテ゛ル の定理や タルスキー の定義を理解したとは思わないで下さい。この書物で語られている証明法は、ケ゛ーテ゛ル や タルスキー とは違うやりかたです--あくまで、ケ゛ーテ゛ル や タルスキー が、「どういうことを証明したか」 という点を語っているのであって、この書物を読んだら、かならず、ケ゛ーテ゛ル の論文と タルスキー の論文を読んで下さい。

 




 

 ▼ 以下は、タルスキー 氏の (真理論に関する) 代表的な論文である。

 ● "The Concept of Truth in Formalized Languages", 1933.
  [ 原文は独文であるが、以下の文献に英訳されている。]
  Woodger, J.H., "Logic, Semantic, Metamathematics", Oxford Clanrendon Press, 1956.

 ● "The Establishment of Scientific Semantics",1936.
  [ 英訳 ] Woodger, J.H., "Logic, Semantic, Metamathematics", Oxford Clanrendon Press, 1956.

 ● "The semantic Conception of Truth and the Foundation of Semantics",
  Philosophy and Phenomenological Research 4., 1944.
  [ 英訳 ] Linsky, L., "Semantics and the Philosophy of Language", Univ. of Illinois Press, 1952.
  [ 邦訳 ] 坂本百大 編、「現代哲学基本論文集 U」、勁草書房、1986.

 



[ 読みかた ] (2006年 2月 1日)

 タルスキー の考えかたそのものを対象にするのであれば、かれの他の論文も読まなければならないのでしょうが、ぼくが読んだのは、以上の 3つです。タルスキー の考えかたを理解するためには、少なくとも、(翻訳で良いから、) 「現代哲学基本論文集 U」 (坂本百大 編、勁草書房) に収録されている論文 (51 ヘ゜ーシ゛ - 120 ヘ゜ーシ゛ 「真理の意味論的観点と意味論の基礎 (飯田 隆 訳)」) を読んで下さい。

 




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