2001年 9月15日 作成 「空集合」 と 「順序対」 >> 目次 (作成日順)
2006年11月16日 補遺  



 物 (個体) が存在しないとしても、なお、集合は存在できる。すなわち、一切の メンバー がない集合を仮想することができる。それが 「空集合」 である。つまり、「空集合」 を メンバー とする集合 [{φ}] を仮想することができる。
 空集合 [ φ ] には メンバー はないが、空集合を メンバー とする集合 [{φ}] は 「一者集合 (存在)」 として成立する。

 順序数とは、つねに、先行する数があることを前提にしている。そこで、順序数を考えるには、「構造」 を解析しようとする数学者たちは--最初、フォン・ ノイマン 氏が提示したが--後続する数を、先行する数の 「集合」 として見做すという 「エレガント な」 やりかたを導入した。つまり、「5」 を 「{0, 1, 2, 3, 4}」 と見做す、という ルール (規約) を導入したのである [ 我々が、「直感的に」 そういうふうに、物のありかたを考えている、という訳ではないが、そういうふうに考えれば、或る 「構造 」 が解析しやすい、という意味である ]。

 とすれば、「0」 は (先行する数をもたないので) 空集合 [ φ ] と見做すことができる。
 とすれば、「0」 と自然数は、空集合 [ φ ] と空集合の集合 {φ} を使って、以下のように記述することができる。

   0 = φ
   1 = {0}     = {φ}
   2 = {0, 1}   = {φ, {φ}}
   3 = {0, 1, 2}  = {φ, {φ}, {φ, {φ}}}
           :
           :

 以上のように考えれば、順序数は集合である、とい うことがわかる。

 以上の考え方を、最も 「エレガント に」 体系化した公理系が、ペアノ 氏の 「自然数の公理系」 である。
 ペアノ 氏の公理系を (述語論理を使って) 記述すれば、以下のようになる。
 自然数 x について、論理式 φ (x) を考える。なお 、N は集合を示し、S は 「N の関数」 とする。

 (1) φ (0).
 (2) ∀x { x ∈ N | φ (x) } ⇒ φ { s (x) }.

 以上の公理系を 「帰納法」 という。
 S (= N の関数) は、「後続」 ということを意味している。たとえば、以下を考えてみればよい。

   1 = S0.
   2 = SS0 = S1.

 以上のようにして、いくつかの基礎集合から有限回の操作を施して生成された集合の メンバー を使って表現できる構造を 「数学的構造 (mathematical structure)」 という。つまり、自然数の数学的構造は (N, 0, S)である。

 次回は、「空集合」 と論理 (仮言命題) を説明する。□

 



[ 補遺 ] (2006年11月16日)

 空集合 (null set) は、便宜上、有限集合と考えたほうが、数学的構造を記述するには役立つ。われわれが、「直感的に」 そういうふうに、物のありかたを考えている、という訳ではないが、そういうふうに考えれば、或る 「構造 」 が解析しやすい、という意味である。本文にも記述したが、そういうふうに考えれば、順序数も集合として考えることができる。

 ただ、数学的構造を 「現実の世界」 に適用したときに、空集合の 「意味」 は 「多義」 になる。すなわち、空集合を 「一者集合 (存在)」 として考えたとき、「undefined」 と 「unknown」 の 2つの 「意味」 を示す。そして、数学的構造では、つねに、「並び」 の扱いが配慮されなければならない。数学では、集合とは、構造を考える際、物があつまった状態のみを云うのではなくて、なんらかの 「並び」 が考えられなければならない。

 私 (佐藤正美) が、データ 設計のなかで論理的意味論を使う際に、もっとも配慮した点が、「空集合 (null set)」 と 「(メンバー のあいだの) 並び」 であった。私が数学を再学習した理由も、データ 設計のなかで論理的意味論を使う際に、どういう点を配慮しなければならないのかを確認するためであった。データ 設計のなかで論理的意味論を使うために、数学を再学習して、私は、データ 構造を記述する際、「空集合 (null set)」 と 「メンバーの並び」 の 2点を注意しなければならないことに気づいた。その 2点を配慮して、私は、TM (T字形 ER手法) の体系を作った。もっと正確に言えば、コッド 関係 モデル という数学的手法を実地のシステム作りのなかで的確に適用するために、論理的意味論を配慮して--しかも、意味論として、実体主義を導入して--、データ 設計法を整えた。その データ 設計法が TM (T字形 ER手法) である。TM は、或る意味では、コッド 関係 モデル の 「論理的意味論」 版と考えても、あながち、間違いではない。




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