2002年 4月30日 作成 関係の論理 >> 目次 (作成日順)
2007年 7月 1日 補遺  


 
 さて、今回は、「関係の論理」 の量化を扱ってみましょう。

 関係の論理を扱うときに、以下の関係を覚えておけばよいでしょう。

 (1) 汎関係と零関係
 (2) 逆関係
 (3) 連鎖
 (4) 遺伝的
 (5) 反射性・対称性・移行性

 反射性・対照性・移行性については、前回 (4月14日、116ページ)、説明しました。
 反射性・対称性・移行性は、以下のように記述されます。

 (1) 反射性 ∀x R (x, x).
 (2) 対称性 ∀x ∀y [ R (x, y) ⇒ R (y, x) ].
 (3) 移行性 ∀x ∀y ∀z{ [ R (x, y) ∧ R (y, z) ] ⇒ R (x, z) }.

 関係 「aRb」 は多項述語論理 (2項述語論理) である。多項述語論理が単項述語論理とちがう点は、全称演算子と存在演算子の コンビネーション を生成できる、という点にある。まず、以下の基本的な記述を最初に習得してほしい。

 (1) 関係の包摂 (⊂)
 (2) 関係の和 (∪)
 (3) 関係の積 (∩)
 (4) 関係の否定 (¬、あるいは補集合)

 
1. 関係の包摂 (⊂)

 1つの関係は他の関係に含まれることがある (R ⊂ S)。
 関係の包摂を述語論理を使って記述すれば以下のようになる。

 R ⊂ S ≡ ∀x ∀y [ R (x, y) ⇒ S (x, y) ].

[ 注意 ] 以上の説明において、「⊂(ふくむ)」 は 「∈ (メンバー である)」 と同義である、と思っていただきたい。

 この式は、「2つの モノ (x, y) の間に関係 R が成立しているとき、(そして、そのときに限り) 常に これらの モノ の間には関係 S も成立する」 ということを記述している。

 
2. 関係の和 (∪) と関係の積 (∩)

 2つの関係 (関係 R と関係 S) のうち少なくとも 1つが成立する、ということは以下のように記述される。

 R ∪ S ≡ ∀x ∀y [ R (x, y) ∨ S (x, y) ].

 2つの関係 (関係 R と関係 S) の間に共通集合を生成することもできる。

 R ∩ S ≡ ∀x ∀y [ R (x, y) ∧ S (x, y) ].

 
3. 関係の否定

 関係の否定は、以下のように記述することは、前回 (4月14日、116ページ)、述べた。

 ¬R (x, y) ≡ R’ (x, y).

 以上の基本的な記述を習得したら、いよいよ、以下の関係の論理を扱いましょう。

 (1) 汎関係
 (2) 零関係
 (3) 逆関係
 (4) 連鎖
 (5) 遺伝的

 
4. 汎関係

 汎関係は以下のように記述できる。

 R ∪ R’.

 これは述語論理を使って以下のように記述できる。

 R ∪ R’ ≡ ∀x ∀y [ R (x, y) ∨ R’ (x, y) ].

 
5.零関係

 零関係は以下のように記述できる。

 R ∩ R’.

 零関係は汎関係を使って記述できる。零関係は 「汎関係の論理的否定」 のことである

 ¬ (R ∪ R’) ≡ R’∩ R ≡ R ∩ R’.

 述語論理を使って記述すれば以下のようになる。

 ∀x ∀y [ R (x, y) ∨ R’ (x, y) ] ≡ ¬{∃x ∃y [ R (x, y) ∧R’(x, y) ] }.

 
6. 逆関係 (inversion)

 逆関係は「逆関数」のことである
 つまり、関数 x = f (y) があれば、逆関係とは x = f−1(y) である (つまり、逆関数になる)。
 たとえば、「佐藤恵美子は佐藤正美の 『妻である』」 という関係の逆関係は 「佐藤正美は佐藤恵美子の 『夫である』」 ということになる。

 
7. 連鎖

 2つの関係 (関係 R と関係 S) において、∃u [ R (x, u) ∧ S (u, y) ] が成立するなら、関係 R と関係 S を連鎖という。

 ∀x ∀y ∃u [ R (x, u) ∧ S (u, y) ].

 たとえば、R (x, u) を 「佐藤敦は佐藤剛と兄弟である」 として、S (u, y) を 「佐藤剛は佐藤正美の子である」 とすれば、関係 R と関係 S の連鎖 ∀x ∀y ∃u [ R (x, u) ∧ S (u, y) ] は 「佐藤敦は佐藤正美の子である」 ということになる。

 
8. 遺伝的(Erblichkeit)

 遺伝という概念は フレーゲ (Frege, G.) が完成した。
 遺伝的ということを記号 「Erbl」 を使って記述する (ドイツ 語の Eriblichkeit の省略)。

 Erbl (P, R) ≡ def ∀x ∀y { P (x) ∧ [ R (x, y) ⇒ P (y) ] }.

[ 注意 ] def は definition の省略形である。すなわち、「このように定義する」 という意味である。

 さて、次回は、以上の関係の論理と前回の記述 (反射性・対称性・移行性) を前提にして、以下の点を扱う。
 「反射性は、対称性と移行性から導出できる。」 □

 



[ 補遺 ] (2007年 7月 1日)

 「性質 f (x)」 は、「関係 f (x, y)」 の特殊な形 [ すなわち、関数 ] と思って良い。
 たとえば、2つの変数 x と y のあいだに不等式 x2 + y2 ≦ 1 は、原点を中心とする半径 1 の円形領域として図示できる。すなわち、x と y とのあいだの関係を表している。

 (1) 一般に、xy 平面上で部分集合 M があれば、x と y とのあいだの 1つの関係として考えて、M を x と y の
   あいだの 1つの関係という。

 (2) 一般に、集合 A と集合 B があって、x を A の変量とし、y を B の変量とすれば、直積 A × B の部分集合
   M を、x と y のあいだの 1つの関係という。

 (3) 関係 M が与えられたとき、x の任意の値 x0 に対して、x = x0 と M との共通部分が つねに 1点だけで
   あるなら、関係 M を 「関数」 という。

    関係 M               関数

     y                  y
     | *  **            |     ・
     | *****            |  | ・
     | **M**            |  ・・
     | ****             | ・|
    ─┼──────── x        ─┼──┼───── x
     0  **               0   x0
        *

 逆関数は、x の関数 y = f (x) が与えられたときに、y の それぞれの値に対応して x の値が定まる関数のことをいい、x = g (y) あるいは y = f−1(x) と表わす。たとえば、女の集合 A と男の集合 B があって、直積 A × B の部分集合 M を 「夫婦である」 とすれば、x が 「佐藤恵美子」 であれば、関数 y = f (x) は、「佐藤恵美子は佐藤正美の妻である (佐藤恵美子が妻であれば、その夫は佐藤正美である)」 ことを示しているが、 逆関数であれば、x = g (y) なので--あるいは、y = f−1(x) --、「佐藤正美は佐藤恵美子の夫である (佐藤正美が夫であれば、その妻は佐藤恵美子である)」 を示している。




  << もどる HOME すすむ >>
  ベーシックス