2002年 4月30日 作成 日本史 (明治・大正 史) >> 目次 (作成日順)
2006年10月16日 更新  


 今回は、明治・大正 史の文献を紹介する。

 なお、「100年物」 については、後日、扱う。

 文中、(★) はお薦めの意味です。



[ 読みかた ] (2006年10月16日)

 私は、取り立てて、明治時代や大正時代に対して興味を抱いている訳ではない。昭和史を調べていたら、芋蔓式に、昭和時代に先立つ大正時代・明治時代に踏み込んだという次第です。

 明治時代・大正時代は、日本が、いっきに西洋化していった時代なので、政治体制・経済制度を核にして、日本の 「変貌」 を調べるには興味深い時代なのでしょうが、(「読書案内 『日本史 (年表)』 のなかで述べたように、) 私の興味は、「正史」 よりも いわば 「外史」 のほうに向いていて、日々の生活のなかで起こった 「できごと (世相史・風俗史)」 を主体にして明治時代・大正時代を観ているようです。明治時代には 「新聞」 が出てきて--初期には、いまだ、「瓦版」 の性質を遺していて、幼稚な記事も多いのですが--、現代の われわれが 「新聞」 を読むように、当時の 「新聞」 を読むことができます--横浜新報 ・もしほ草・江湖新聞などは、「新聞の先駆け」 でしょうね。

 「新聞」 に関して、興味深い話題を 1つ記しておきましょう (明治 15年 9月 2日、弥生新聞)(参考)

      昨一日高知病院にて十七人の婦人が新聞を開きて論説を読んで居られたる由なるが、十四五年
      も以前で有つたならば、立派な壮士達でも蹂 (さぐ) り読みも覚束なき者多かりぬべし、
      世の開明に赴く事には、往を見て来を感ずる事少からず。

 婦人が 「新聞」 を読んでいる様が話題になるというのも、時代が時代ですね (笑)。私は、先日、通勤電車のなかで、若い女性が日本経済新聞と The Japan Times を読んでいるのを観ましたが、注目に値する光景でもないでしょうし、もし、私が話題にすることがあるのならば、その女性の横に座っていた、いい歳した男性が、朝っぱらから、漫画本を夢中で読んでいたことでしょう。

 西洋化の流れのなかで、いちばんに大きな できごと は、徳川時代の士農工商という階級制度・世襲制度が廃止されたことでしょう。すなわち、生まれた時点で、一生涯の地位が定められていた封建制度が廃止されたことでしょうね。現代の資本主義制度のなかにも、暗黙のうちに、或る種の階級制度がありますが、ひとが誕生した時点で、そのひとの身分が定まるという制度ではない。

 その次に大きな できごと は、月日の数えかた (暦法) が変わったことでしょう (明治 5年 12月 3日)。太陰暦から太陽暦に変わったのですが、時間軸の変更というのは、風俗 (生活の リズム) に対して--たとえば、農耕・結婚、そして 「吉凶」 の占いなど--、多大な影響を及ぼしました。
 明治 5年 (1872年) の 12月は、1日と 2日しか存在しない。12月 3日は、明治 6年 1月 1日になりました。太陽暦に改訂したので、神武天皇即位をもって 「紀元」 と定められました。さて、12月 が 2日間しかなかったので、「月給」 の支払いがもめたそうです。すなわち、12月 が 2日間でも、勤め人にしてみれば、12月という 「月」 があるからには、一ヶ月分の支給を主張したようですが、役所や会社では、暦法に関する太政官詔を楯にして不払いにしたそうです。師走が 2日間しかないまま正月を迎え、年末・年始の用意は大慌てになったとのこと。

 時代の急な転回のなかで、ふだんの生活も様変わりしました。食生活・服装などの風俗や貨幣制度が変わり、封建制度社会に対して、資本主義社会の特徴が はっきりと観られる 「現代の原型となる 『近代』」 という言いかたが適用される 「新しい時代」 になったのは確かですね。「近代」 というのは、日本史では、明治維新から太平洋戦争の終結までをいうのが通説のようです。太平洋戦争で廃墟となった日本は、再度、「社会制度の断層」 を体験しました。元号を無視して 「世相史」 を考えれば、大正時代と太平洋戦争の開始までの昭和時代を1つの 「時代」 として観てもいいのではないかと私は思っています。

 「貨幣制度」 に関して、興味深い話題を 1つ記しておきましょう (明治 17年 10月 2日、官報 26号)(参考)

      旧銅貨天保通宝来る明治十九年十二月限通用を禁止す。
      右奉勅使布告候事、明治十七年十月二日 太政大臣三条実美 大蔵卿松方正義

 明治・大正には、「天保銭」 という ことば が流行 (はや) ったそうです。その意味は、「足りない、ぬけている、ばか、ズレている」 です。というのは、天保銭には、当八と鋳込んであって、八文の値打ちで、十文には二文 足りないから、ばかなひと のことを 「天保銭」 と云ったそうです。明治になって、天保銭 120枚を新円一円と交換したのですが、明治十九年に、禁止となりました。ただ、天保銭は、多量に鋳造されていたので--四億八千万枚とも云われていますが--、明治末まで、実際には使われていたそうです。それほど多量に鋳造されたので、昭和時代になっても、あちこちの家で、(使われないけれど、) 転がっていたようです。私が子どもの頃に、天保銭を観たことがあります。
 ところが、のちに (太平洋戦争前に)、「天保銭」 の意味が、逆に、「エリート」 を指示しました。当時、陸軍大学を (大尉になるまでに入学して、) 卒業すれば、陸軍大将の肩章--肩章が金 ピカ だったので陸軍大将 ベタ 金と云ったそうです--が約束されていて、卒業生が胸に バッチ をつけていて、その バッチ が天保銭に似ていたので、かれらを 「天保銭組」 とよんだそうです。

(参考) 新聞資料 明治話題事典、小野秀雄 編、東京堂出版。

 
 私は、以下の 6冊を、まず、読んで、明治時代・大正時代の大略を把握しました。

  (1) 新聞資料 明治話題事典、小野秀雄 編、東京堂出版
  (2) 朝日新聞に見る日本の歩み (大正元年〜大正 15年、 5冊)、朝日新聞社
  (3) 明治世相編年辞典、朝倉治彦・稲村徹元 編、東京堂出版
  (4) 明治大正史(世相篇)、柳田國男、講談社学術文庫
  (5) 事件で見る 明治 100話、中嶋繁雄、立風書房
  (6) 写真 明治大正 60年史 (1868-1926)、毎日新聞社 編

 





 ▼ 新聞記事

 ● 横浜新報 もしほ草 江湖新聞、小野秀雄 校訂、明治文化研究所版

 ● 新聞記事で綴る明治史 (上・下)、荒木昌保 著、(株)亜土

 ● 新聞記事が語る明治史 (上・下)、土屋喬雄 監修・荒木昌保 編集、原書房

 ● ニュースで追う 明治日本発掘 (全 9冊)、鈴木孝一、河出書房新社

 ● 新聞資料 明治話題事典、小野秀雄 編、東京堂出版

 ● 朝日新聞に見る日本の歩み (大正元年〜大正 15年、 5冊)、朝日新聞社 (★)

 ● 号外 近代史 (T〜V)、木下宗一 著、同光社

 


 ▼ 概略書

 
 ● 明治世相編年辞典、朝倉治彦・稲村徹元 編、東京堂出版 (★)

 ● 明治考証事典、吉田八岑、新人物往来社

 ● 明治大正 諷刺漫画と世相風俗年表、岩崎爾郎・清水 勲 共著、自由国民社

 ● 明治百話 (上・下)、篠田鉱造 著、岩波文庫

 ● 明治大正史(世相篇)、柳田國男、講談社学術文庫 (★)
  (「東洋文庫」 にも収録されている)

 ● 明治大正史 T (言論篇)、朝日新聞社

 ● 明治事物起源 (明治文化全集 別巻)、明治文化研究会 編、日本評論社

 ● 明治期の庶民生活の諸相、神立春樹 著、御茶の水書房

 ● 明治大正 商家の暮らし、山崎祐子 著、岩田書院

 ● 御大禮記念 明治大正史 (「実業之世界」 二十周年記念)、実業之世界

 ● 事件で見る 明治 100話、中嶋繁雄、立風書房

 ● 明治外交秘話、小松 緑、原書房

 ● 明治 4年 賤称廃止布告の研究、尾佐竹 猛、批評社

 ● 明治黎明期の犯罪と刑罰、小泉輝三郎、批評社

 ● 明治離婚裁判史論、村上一博 著、法律文化社

 ● 明治国家の教育思想、本山幸彦 著、思文閣出版

 ● 明治文化史 (3) 教育道徳 編、開国百年記念文化事業会 編、洋々社

 ● チラシ 広告に見る 大正の世相・風俗、増田太次郎 著、ビジネス 社

 ● 型録・ちょっと昔の生活雑貨、林 丈二、昌文社

 ● 東京風俗志、平出鏗二郎 著、生活の古典双書、八坂書房

 


 ▼ 写真集・図録

 
 ● 写真 明治大正 60年史 (1868-1926)、毎日新聞社 編

 ● 図説 幕末明治流行事典、湯本豪一、柏書房 (★)

 ● 図説 明治事物起源事典、湯本豪一、柏書房 (★)

 ● 銅版画 明治の商家、高橋正人 編著、双書美術の泉49

 ● 明治風俗画集成 目で見る明治時代 (全 3巻)、国書刊行会 編

 ● ビゴー 素描 コレクション (全 3巻) [ 明治の風俗、明治の世相、明治の事件 ]
  芳賀 徹・清水 勲・酒井忠康・川本皓嗣 編、岩波書店

 ● 明治物売図聚、三谷一馬、三樹書房

 

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