2002年 6月15日 作成 | 日本語の文例集 (その 2) | >> 目次 (作成日順) |
2007年 8月 1日 補遺 |
前回 (「問わず語り」 の 126ページ)、「日本語の文例集」 についてお話しましたが、文例は 「小説」 を対象にしていました。きょうは、「短歌・俳句・詩」 の文例集を対象とします。短歌と俳句と詩は形式が違うので、当然ながら、それぞれ、材料 (対象) の扱いかたは違うのですが、共通している点は、個人の緊張した心のうちを短い韻律のなかで記述する点に特徴があります。 短歌は、五・七・五・七・七の 5句 (31音) から構成される定型詩です。古代 (万葉の時代) から、日本人に愛されてきた叙情詩です。 俳句は、五・七・五の 3句 (17音) の定型詩です。3句のなかには、原則として、季語が記述されていなければならない。俳句は短歌から派生しましたが、俳句と短歌では、記述の意図が正反対です。というのは、短歌は叙述性を主体にしていますが、俳句は叙述性を否定しています。俳句は、文章としては不完全な 17文字のなかに抒情を込めなければならないので--1つの詩のなかで叙述を完了するためには文字数が少ないので--、短い文章のなかに材料だけを提示して、材料と材料をぶつけて、抒情を言外に延ばしているようです。 近代詩は、短歌や俳句のような定型詩の形がないようですが、「ことばの結晶」 を形成して抒情を韻律に託すという点では短歌や俳句と共通する性質があるようです。 短歌・俳句・詩は、ムダ な ことば を削ぎ落とした 「ことばの結晶」 のなかに抒情を込めるので、格調高い・的確な日本語の使いかたを学ぶためには最高の手本になるでしょう。 文例集として、以下をお薦めします。
- 必携 季語秀句 用字用例辞典、齋藤愼爾・阿久根末忠 編、柏書房 以上の文献に収録されている文例をすべて読まないで、「気になる」 ことば に関して、どのように使われているか、という点を調べればよいでしょう。
近代詩については、愛読している詩人がいればいい。詩人の全集を読めばよい。 - 八木重吉全集 (全 3巻)、筑摩書房 もし、全集を読む余裕がないのなら、以下を読めばよいでしょう。
- 改訂普及版 定本 八木重吉 詩集、彌生書店 もし、愛読している詩人が、まだ、いないのなら、以下の本を読んで、感応する詩人を見つけてください (多くの詩人の代表作が収録されています)。 - 集成・昭和の詩、大岡 信 編、小学館
「思想 (パンセ)」 は、考えなくとも、ひとりでに出てくるようになる。それらの思想そのものに注意力を |
[ 読みかた ] (2007年 8月 1日)
私は、英語の quotations を読むように、短歌・俳句・詩を読んでいます。すなわち、短歌・俳句・詩のなかで使われている キーワード を索引語にして、短歌・俳句・詩を拾い読みしています。 いま、私が この文を綴っている机の側の本立てに、「俳句 類語表現辞典」 (学研) が置いてあります。この辞典は、私が (本 ホームページ の) 「佐藤正美の一言 メッセージ」 のなかで俳句を引用するときに参照している辞典です。たとえば、この辞典を使って、「悪」 を調べたら、以下の 7つの俳句が記載されています。
長柄大鎌夏草を薙ぐ悪を刈る (西東三鬼) 「シャワー 浴ぶ悪事の前とその後と」 は、ずいぶんと エロチック な句ですね。
現実の事態と ことば の関係では、オノマシオロジー と セマシオロジー という 2つの正反対の アプローチ がありますが、いずれにしても、文は ことば の構造であって、的確な ことば を使わなければ、伝えたい 「意味」 が伝わらないでしょう。そして、的確な ことば は、類語・関連語をふくんだ体系のなかで選ばれるしかない。言い換えれば、的確な ことば は、類語・関連語のなかで、いくつもの ことば を比較して選ぶしかないでしょうね。 悪人・悪事・悪意・悪性・悪所・悪化・邪悪・大凶・悪魔・悪霊・悪し様 (ざま)・悪しからず・悪条件・悪感情
これらの類語・関連語を読めば、いっそう、想像力が走って、ほかの様々な着想も産まれますね。 Homi soit qui mal y pense (Evil be to him who evil thinks) [ Anonymous ] Anonymous というのは、さしずめ、「詠み人知らず」 ということかしら。 Motto of the Order of the Garter という注書きがあるから、「ガーター 勲章士会の会則」 のなかに記されているのかしら。 ウィトゲンシュタイン は、以下の ことば を遺しています。 哲学は、本来的に、ただ詩作としてのみ書かれるべきである。 哲学の専門家たちによれば、ウィトゲンシュタイン の文 (ドイツ 語) は、芸術に値する文だそうです。われわれ凡人は、かれほどの天才はないので、達意の文を綴ることはできないけれど、概念は ことば を使って記述されるのだから、ことば に配慮するためにも、「文例集」 を読みながら、ことば の使いかたを習得するようにしたいですね。 |
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佐藤正美の問わず語り |