2002年 8月16日 作成 集合論の公理系 (ZF と BG) >> 目次 (作成日順)
2007年10月16日 補遺  


 
 さて、今回は、「集合論の公理系」 として ZF と BG の公理系を扱ってみましょう。

 「ラッセル の パラドックス」 が論点になった以後、集合の全体 (すべての集合をひとまとめにした モノ) を集合と呼んではいけないことになった。そこで、集合があまり大きくならないように、集合の生成方法が 「公理 (axiom)」 として扱われることになった。それを公理的集合論という。

 ツェルメロ (Zermelo, E.) は、{ x | x ∈ A } の代わりに、{ x ∈ a | A (x) } の形を集合とすることを提示した。
 これを分出公理という。

 すなわち、もう 1つの集合 (集合 a) を介在して、あまり大きくならない集合 (集合 a よりも小さい集合) を導入した。
 言い換えれば、{ x ∈ a | A (x) } は集合 a の部分集合である。そのために、分出公理のことを 「内包の公理」 とか 「部分集合の公理」 ともいう。この集合 { x ∈ a | A (x) } を セット と云う。

 集合 X の メンバー x について、判断 f (x) があって、真を 「1」 とし偽を 「0」 として、真理集合 S = { 0, 1 } をとれば、f は S への関数として考えることができる。そこで、f (x) = 1 となる メンバー を集めれば集合になる [ Y = { x ∈ X | f (x) = 1 }] というのが分出公理である。分出公理は述語論理式を使って表現すれば、以下のようになる。

   ∀a ∃b ∀x [(x ∈ b) ⇔ (x ∈ a) ∧ A (x) ].

 ところが、分出公理からは、{ a, b } とか a∪b とか集合族などを導出することができないので、他のいくつかの規約が公理 (前提) として扱われることになった。その公理系を大成した人物が ツェルメロ であるが、その公理系のなかに、フレンケル (Franckel, A.) が 1つの公理を加えて、「矛盾が起こらないように」 集合を扱うことができるようになったので、その公理系が集合論の安全基準として使われてきた。
 その公理系を Zermelo-Franckel の集合論といい、「ZF」 というふうに省略することが多い
。ZF の公理系には以下の特徴がある。

  (1) 等号をふくむ第一階述語論理を使って形式化されている。
  (2) 9つの公理をもつ形式的体系である。
  (3) ∈ 以外の述語を使わない

[ 参考 ]
 等号の公理 (axiom of equality) というのは、任意の a, b に対して、∀x [ a = b ⇒(a ∈ x ⇔ b ∈ x)] が成立することをいう。
 (述語論理式という言いかたに対して) 集合論的論理式という言いかたをすることもあるが、集合論的論理式というのは、∈ (メンバー である) という述語だけを使って作成される論理式のことをいう。
 なお、ZF のそれぞれの公理について、詳しく知りたいなら、集合論や数学基礎論の文献を読んでください。

 
 ZF の公理系は、単純に言えば、集合の構成法を提示して、どのような モノ が集合として考えられるか、という点を明晰にした体系である。

 フォン・ノイマン (Neumann, J.L.V.) は、記号論理の手法を使って、いっそうの形式化をして集合論を拡張した。
 そして、ベルナイス (Bernays, P.) と ゲーデル (Godel, K.) が、ノイマン の形式化を単純な形に整理した。
 形式的に拡張された集合論を Bernays-Godel の集合論といい、「BG」 というふうに省略することが多い。
 BG では、A (u) を任意の集合論的論理式とする。{ u | A (u) } の存在は、ZF から得られない。
 { u | A (u) } を クラス (class) と呼ぶ。

 第一階述語論理のなかで、集合論的論理式は、クラス に関する束縛変数を含まない論理式をいう。
 すなわち、A (u) を任意の集合論的論理式とするとき、以下を公理に加える。
   ∃X ∀u { u ∈ X ≡ A (u) }.  (X は クラス に関する変数とする。)

 なお、ZF で証明される論理式は BG で証明されるし、BG で証明される集合論的論理式は ZF で証明できる。 □

 



[ 補遺 ] (2007年10月16日)

 集合概念として、数学者たちは クラス 概念を使い、論理学者たちは セット 概念を使う傾向があるそうです。私は、仕事上、セット 概念を使っています。というのは、私が仕事の起点にした コッド 関係 モデル は セット 概念を使っているので。

 素朴集合論では、「集合」 は、次の 2つの条件を満たす 「モノ の集まり」 とされています。

 (1) 或る モノ が、その集合に入っているかどうか識別できる。
 (2) その集合から 2つの モノ を取りだすと、それらが等しいか等しくないかを識別できる。

 ただ、この 2つの条件を前提にして 「巨大な集合」 を考えたときに、パラドックス (じぶん自身をふくむ集合はあるか) を生じたので、パラドックス を回避するために、ラッセル は 「タイプ 理論」 を示し、ツェルメロ は 「公理系」 を示しました。ZF の公理系は、以下の 9つの公理から構成されています。

 (1) 外延性公理 (メンバー が同じ集合は等しいこと)
 (2) 対の公理 (集合を メンバー とする集合が存在すること)
 (3) 和集合の公理 (合併集合が存在すること)
 (4) ベキ 集合の公理 (部分集合全体 [ 集合族 ] の集合が存在すること)
 (5) 空集合の公理 (メンバー のない集合が存在すること)
 (6) 無限集合の公理 (自然数のすべてをふくむ集合が存在すること)
 (7) 分出公理 (部分集合が存在すること)
 (8) 置換公理 (x ∈ X について、f (x) があるなら、{ f (x) | x ∈ X } は集合になること)
 (9) 正則性公理 (x ∈ y において、y でも x でも成立するなら、集合内のすべての メンバー で成立すること)

 「対の公理」 は、集合を メンバー とする集合が存在することですが、クラス 概念ではないことに注意して下さい。そして、「対の公理」 で構成される集合は、「非順序対 (unordered pair)」 である点にも注意して下さい。たとえば、2つの集合-- M と N --があれば、その 2つの集合を メンバー とする集合 X が存在し、集合 X は { M, N } として構成されます。もし、「順序対 (ordered pair) にするのであれば、以下のように構成します。

    (M, N) = { { M, M }, { M, N } }.

 「正則性公理」 は、たとえば、自然数 (n − 1) について成立し、n でも成立するならば、すべての自然数において成立する、ということです。クラス 概念であれば、(「正則性公理」 の代わりに、) コンパクト 性定理を使うのかもしれない。

 ZF の公理系に対して、「選択公理」 (ツェルメロ が示した公理) を加えた集合論を、ふつう、「ZFC」 と略称しています。「選択公理」 とは、「空でない」 集合の族の それぞれ 1つずつの メンバー を選ぶ関数が--これを 「選択関数」 と云いますが--存在する、という公理です。そして、「選択公理」 を前提にすれば、「任意の集合は整列できる」 というのが 「整列定理」 (ツェルメロ) です。

 なお、ZF の公理系から 「無限集合の公理」 を除いた公理系は、ふつう、「一般集合論 (general set theory)」 と云われています。

 ちなみに、自然数は、集合を使って、以下のように記述することができます。

    0 = φ.

    1 = { φ }.

    2 = { φ, { φ } } = { 0, 1 }

    3 = { φ, { φ }, { φ, { φ } } } = { 0, 1, 2 }.

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