2003年 4月 1日 作成 ベーシック・イングリッシュ >> 目次 (作成日順)
2008年 4月16日 補遺  


 
 TH さん、きょうは、「ベーシック・イングリッシュ」 についてお話しましょう。

 Basic English は、故・Ogden C.K. 氏が提唱しました。
 850 語の簡単な単語を使って 「わかりやすい」 伝達をしようというのが Basic English の目的です。
 Basic English を使った辞書として、以下の 2つをお薦めします。

 - [ 英英辞典 ] 「ベーシック」 英英辞典(The General Basic English Dictionary)、 Ogden C.K. 監修
 - [ 和英辞典 ] 英文を書くための辞書BASIC ENGLISH WRITERS' JAPANESE-ENGLISH WORDBOOK)、Daniels F.J.

 いずれの辞典も北星堂の出版です。
 英英辞典は、英単語を Basic English を使って定義しています。和英辞典は、Basic English を使った例文を豊富に記載しています。

[ 参考 ]
 もし、「ベーシック」 英英辞典が初級向けとして高級すぎると思われるなら、以下の書物をお薦めします。
 THE BASIC WORDS (850語とその活用)、Ogden 著、北星堂

 850 語程度の単語を使う前提ですから、それらの単語を使って、すべての事象を記述することは無理なのは当然ですが、ベーシック・イングリッシュ は 「考えを促す」 という点で役立ちます。というのは、850 語の少ない語彙を使って事象を記述するとなれば、(類語を使った言い換えができないので) 定義は 「記述的」 にならざるを得ないから。

 たとえば、Basic English では、month は 「things」 の語彙とされていますが、monthly は語彙になっていないので、「月刊誌 (a monthly publication)」 を記述するには以下のように定義されます。

  a paper (book) which comes out once a month/ a one-number-a-month paper

 つまり、「月刊誌」 という言いかたではなくて、「1ヶ月に 1度、出版されている」 という 「記述的な」 言いかたになります。
 また、たとえば、「先例」 について、以下の文例が記述されています (「英文を書くための辞書」)。

 - 先例を破る:
   unexampled
   be a new record

 - 先例がない:
   be not based on anything (which has been) done before
   be a completely new thing [way of going on]
   be the first of its sort

 この記述は 「わかりやすい」 でしょう。ちなみに、(Basic English を前提にしていない) 「和英辞典」 を使って 「先例」 を調べたら、以下の例文が記載されていました。

 - This is unprecedented. (これは先例がない。)

 おそらく、「先例がない」 という記述については、(「before」 の反対概念として) 「first」 とか 「new」 という概念が最初に頭に浮かぶと思う。そういう基礎概念を使って 1つの複合概念を形成しなければならないので、簡単な語彙を使って概念を定義するというのは 「考える力」 を養うことになるでしょうね。

 ただ、基本語彙というのは多義になるので使いかたを注意しなければならない。
 たとえば、以下の英文を考えてみましょう。

  Use what you've got.

 簡単な単語ばかりですが、この文をいきなり提示されても、「意味」 を理解することはできないでしょう。
 この文が使われた文脈のなかで意味は成立します。
 「今までの体験を活しなさい」 という意味にもなるし、「(新しいことを探し求めないで) すでに体得したことを有効に使いなさい」という意味にもなる。

 逆に言えば、膨大な記述の繰り返しを避けて、膨大な記述を 1つの概念として再利用できるようにするために専門用語を使うのでしょうね。ちなみに、unprecedent の反対概念である precedent (あるいは、precedence) は、英英辞典では以下のように定義されています (「新英英辞典」、研究社)。

 - precedence: coming before in time or order
 - precedent: an action that may serve as an example for later action (先例)

 言葉が概念を記述する手段であるなら、語彙は豊富であればあるほど思考の手助けになりますが、「理解語彙」 (聞いて意味がわかるけれど使うことができない語彙) と 「運用語彙」 (実際に使うことができる語彙) があるとすれば、豊富な語彙がなければ英語をしゃべること (自らの考えを伝達すること) ができないと思わないで、ベーシック・イングリッシュ の辞典を読むことをお薦めします。暗記しようとしなで、ただ、読めばよい。ベーシック・イングリッシュ の辞典を読めば、1つの概念を複数の簡単な単語を使って記述するという 「思考の訓練」 になるでしょう。

 



[ 読みかた ] (2008年 4月16日)

 本 エッセー で、「Basic English」 の辞典を使うように薦めていますが、「Basic English」 の辞典のみを使うのではなくて、一般の和英辞典も併用するのが当然でしょうね。私は、「口語 (会話)」 では、「Basic Eniglish」 を使うようにしていますが──というか、母国語でない英語の語彙を自在に使いこなせないので、頭に思い浮かぶ簡単な語彙で、なんとか、意味を伝えようとしている、というのが正直な意見なのですが──、「文語 (英文作成)」 では、かならずしも、「Basic Eniglish」 のみを使っている訳ではないです。「Basic Eniglish」 を使うのは、「英会話のため」 と思ったほうがいいでしょうね。「英会話のため」 といっても、「英会話」 という独立の領域がある訳ではないのだから──文を綴る行為とは、無関係に、会話の領域が存在している訳ではないので──、私は、英文日記を綴る際に、和英辞典といっしょに、「Basic Eniglish」 の辞典を使っています。

 たとえば、「偶然に、同じことが起こった (偶然に一致した)」 という文を英訳するとき、「偶然」 を 「Basic Eniglish」 辞典を参照したら、以下の語・句を記載しています。

    偶然に by chance、偶然の〜 chance 〜、偶然 chance/ something done by chance/ chance event

 でも、これらの語を使うよりも、coincidence を使ったほうが、文意は ぴったりするでしょう。
 「私は、鹿島 アントラーズ の ファン です」 と相手が言ったら、「What a (happy) coincidence !」 と応対すれば、少々、戯けて趣味の一致を喜びあうことになるでしょうが、それを、もし、簡単な単語を使って、It is by chance that I am a great fan of Antlers と言えば、「意味が違ってきます」。

 「神経が高ぶる」 という英訳として、或る和英辞典は、以下の文例を記載しています。

    He is in a highly wrought-up [ nervous ] state.

 Wrought は、work の過去形・過去分詞形 (古い形) です。この文は、われわれが、「会話」 のなかでは、なかなか、使えない (思い浮かばない) のではないでしょうか。「Basic Eniglish」 辞典では、以下の句例が記載されています。

    be in a condition of (bad) nerves/ be worked up

 これらは、「Basic Eniglish」 辞典で、いったん知ったら、以後、われわれでも簡単に使える句例でしょう。あるいは、もし、「神経が高ぶっている」 ことが、「ピリピリ している」 状態をいうのであれば、be on pins and needles とか on edge のほうが良いかも。「ピリピリ している」 状態を、「Basic Eniglish」 辞典は、以下のような 「記述的」 句例を記載しています。

    be in a condition in which [ one ] may readily be made angry
    [ one's ] nerves are in such condition that [ one ] may readily be made angry

 なるほどなあ、と思う 「記述的」 句例ですね。こういう句例は、(本 エッセー のなかで述べましたが、) 暗記しようとしないで、ただ、読めば良い (読み流せば良い) でしょう。そういうふうに、文例・句例を 多数 読んでいるうちに、英文を作成する際に、なんらかの 「英語に対する感覚 (英語使用の感覚)」 が養われるのではないでしょうか。
 ちなみに、この may の使いかたは、われわれ日本人 (英語を母国語にしていないひと) には、なかなか、できないのではないでしょうか。  




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  佐藤正美の問わず語り