2003年10月16日 作成 風土記・古事記・日本書紀・続日本記 >> 目次 (作成日順)
2008年 3月16日 更新  


 以下に掲載する書物は、古事記や日本書紀を、それぞれ、「研究」 しようとして所蔵しているのではなくて、古事記や日本書紀が、現存する最も古い史料として、「なに」 (たとえば、古代の日本人が使っていた語彙とか、日本人の性質・世界観とか) を記述しているのか、という点を知りたいために入手した文献である。
 それが目的なので、古事記や日本書紀などを、研究対象として究明しようとしていないことを御了承ください。


[ 読みかた ] (2008年 3月16日)

 「古事記」 「日本書紀」 について語るのは、「マッチ箱」 の取り扱いに似ています。下手に語れば、火傷 (やけど) をします。というのは、「古事記」 は、日本の歴史のなかで、「特殊な」 扱いをされてきたし、いくつかの 「事件 (たとえば、津田左右吉 氏の著作 「古事記及日本書紀の研究」が有罪とされたこと──ただし、最終的には、「公訴時効完成ニヨリ免訴」 という結末になりましたが──)」 など、「皇室ノ尊厳冒涜」 とか国粋主義がまつわって、「古事記」 という ことば そのものが、或る像 (意味) を連想させるので。私は、ここでは、「古事記」 「日本書紀」 にまつわる後世の歴史的できごと を外して、「古事記」 を ひとつの著作として──したがって、ひとつの作品として──、当時の時代文脈のなかで まとめてみます。

 まず、「古事記」 について、私の興味は、「日本語表記」 という点にあります。上代は、言語文化から観れば、無文字社会から文字社会へと移行した時代です。すなわち、漢字が伝来して、伝誦文化が文字として記録された時代です。漢字は、「外国語」 として伝来して、漢字の 「意味」 に対して日本語 (口語) が対応され、ついには、日本語の使いかたに合わせて、正格漢文 (中国の漢文) とは違う 「和化漢文」 が生まれました。「古事記」 の文体は、序文が漢文体で、本文は 「和化漢文」 体で、歌謡は和文体というふうに混成されています。

 「古事記 (三巻)」 の成立事情は、現時点で入手できる史料のなかでは、「古事記」 の序文そのもので述べられた文しかないようです。序文によれば、天武天皇が稗田阿礼 (ひえだのあれ) に 「帝紀・旧辞」 を誦習させたのですが,天皇の死によって中断して、三十数年後、元明天皇が その事業を継承して、元明天皇の詔をうけて太安麻呂 (おおのやすまろ) が これらを筆録して、712年 (和銅 5年) 正月に献上したとのこと。こういう知識は、高等学校で教わったので、記憶している人たちも多いでしょうが、「古事記」 のなかに──特に、中巻・下巻で記述されている物語には──歌謡が多い (110首くらい) ことは知られていないようです。

 上巻 (神々の誕生から神武天皇の出生まで) は 「神々の物語」 で、中巻 (神武天皇から応神天皇まで) は 「(神のような人物の) 英雄伝」 で、下巻 (仁徳天皇から推古天皇まで) は 「(それぞれの天皇の時代に起こった) 叙事 [ 反逆事件、恋愛物語など ]) という構成になっています。ちなみに、下巻では、25代とされる武烈天皇以下は系譜的記事のみとなっています──言い換えれば、下巻では、神話が ほとんど消え去っています。

 「古事記」 の注釈書として、いまでも、評価の高い著作は、本居宣長の 「古事記伝」 (1798 年完成) だそうです──「古事記」 に記述された伝承をすべて信じるという かれの態度は争点になりますが、「古事記伝」 は、文脈に そって、一言一句の意味を究めた労作です。

 「古事記」 の 8年後に編集された 「日本書紀 (30巻)」 は、興味深いことに、「古事記」 を参考にしていないそうです。「太安麻呂が参画した」 というのは、子孫の多人長 (おおのひとなが) の個人的な主張に過ぎず、学術的な通説では、「日本書紀」 は、「古事記」を、内容においても表記においても参考にしていない」 とのこと。

 「日本書紀」 は、六国史 (りっこくし) のひとつです──六国史とは、奈良・平安時代の朝廷で編集された六つの国史のことをいい、日本書紀 (30巻、720年 [ 神代〜持統 ])・続日本記 (40巻、797年 [ 文武〜桓武 ])・日本後記 (40巻、840年 [ 桓武〜淳和 ])・続日本後記 (20巻、869年 [ 仁明 ])・日本文徳天皇実録 (10巻、879年 [ 文徳 ])・日本三大実録 (50巻、901年 [ 清和〜光孝 ]) の総称です。

 「日本書紀」 は、「帝紀・旧辞」 のほかにも多数の史料を参考にして、かつ、異伝があれば、異伝も注記した丁寧な編集になっており、完成までに 40年を費やしたと推測され、記述に用いられている漢字の文体・語法が、巻ごとに、やや異なるので、編集には複数の人たちが関与したと推測されるのですが、最終編集者が舎人親王 (とねりしんのう) 以外には明らかでないそうです。記述体裁は、中国の歴史書にならって編年体を採用しているのですが、神武天皇の即位を西暦紀元前 660年にあたる辛酉の年としているので、初期の天皇は不自然に長寿となっているし、神功 (じんぐう) 皇后紀でも、皇后を 「魏志倭人伝」 の卑弥呼と考えたので、120年ほど年代を前にずらしていて、史実としての疑わしさは拭えない──通説では、ほぼ史実と認められるのは天武紀と持統紀だそうです。

 「古事記」 と 「日本書紀」 を、文体から対比してみると、以下のように まとめることができます。

 (1) 「古事記」 は、和化漢文、紀伝体。
 (2) 「日本書紀」 は、ほぼ正格漢文、編年体。

 「古事記」 「日本書紀」 に関して、私は、喩えてみれば、ワーグナー (Richard Wagner、ドイツ の作曲家) の楽劇 (「ニーベルングの指輪」) と似たような感じを抱いています。それらの書物を 「神々 (あるいは英雄) の叙事詩」 として読んでも、私のような 歴史を専門にしていない一般読者にとって、選り抜きのたのしみとしても非難されないでしょう。





 ▼ [ 史料、資料、辞典 ]

 ● 「古事記」 「日本書記」 総覧、新人物往来社

 ● 新訂 古事記 付現代語訳、武田祐吉 訳注、中村啓信 補訂・解説、角川文庫 ソフィア

 ● 古事記總索引、富山民蔵・高木市之助 編、平凡社

 ● 古事記總索引 補遺、富山民蔵・高木市之助 編、平凡社

 ● 本居宣長全集 (巻 9〜巻 12)、大野晋・大久保 正 編集校訂、筑摩書房

 ● 古事記・祝詞 (日本古典文學体系1)、倉野憲司・武田祐吉 校注、岩波書店

 ● 古事記辞典、村林孫四郎 著、錦正社

 ● 日本書記 [ 前篇・後篇 ] (新訂増補 国史大系)、吉川弘文館

 ● 日本書記索引 六國史索引一、吉川弘文館

 ● 訓読 続日本記、今泉忠義 訳、臨川書店

 ● 訓訂 先代旧事本紀、大野七三 校訂編集、批評社

 ● 風土記、吉野 裕 訳、平凡社東洋文庫 145

 




 ▼ [ 現代語訳、英訳 ]

 ● 新釋 古事記、石川 淳、角川書店

 ● 神がみの パフォーマンス 古事記の物語、斎藤正二郎 訳、八坂書房

 ● 全訳・現代文 日本書記 (上・下)、宇治谷 孟、創芸出版

 ● 古事記 万葉集 古今和歌集 新古今和歌集 (カラー 版 日本文学全集 1)、河出書房新社
  [(訳者) 福永武彦 (古事記)、山本健吉 (万葉集、古今和歌集)、池田弥三郎 (新古今和歌集) ]

 ● KOJIKI、translated with an introduction and notes by Donald L. Phlippi、University of Tokyo Press

 ● NIHONGI、translated from original Chinese and Japanese by W.G. Aston、TUTTLE

 




 ▼ [ 概説書、解説書 ]

 ● 古事記概説、山田孝雄 著、中央評論社

 ● 古事記 (古典を読む 10)、益田勝実、岩波書店

 ● 現代人のための古事記、林 房雄、新人物往来社

 ● わかりやすい 「古事記」 入門、佐藤寿哉、日本文芸社

 ● 資料竝用 記紀の思潮、小笠原春夫、文化書房博文社

 ● 記紀歌謡集全講、武田祐吉、明治書院版

 ● 日本の古代 神話傳説 文學、賀古 明 著、文化書房

 ● 古代説話 風土記篇、大久間喜一郎 篇、桜楓社

 ● 風土記説話の古代史、龍音能之、桜楓社

 



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