2004年 2月 1日 作成 江戸時代の文学・思想 >> 目次 (作成日順)
2008年 7月 1日 更新  



 以下に掲載する書物は、江戸時代の文学・思想を、単独に 「研究」 しようとして所蔵しているのではなくて、文学史のなかで、日本人の 「考えかた」 を知りたいために所蔵している。
 それが目的なので、文献を、研究のために、網羅的に収集しているのではないことを御了承ください。


[ 読みかた ] (2008年 7月 1日)

 「読書案内 (『江戸時代 (全般、中級編)』 (191 ページ) でも述べていますが、私は、歴史 (日本史) の学習で、昭和時代に次いで、江戸時代に対して興味を抱いています。そして、「反 コンピュータ 的断章」 のなかで、私は、たびたび、荻生徂徠の著作から引用しているように、荻生徂徠を読み込んできました。本居宣長の著作も丁寧に読もうと計画しているのですが、いまだ未着手です。

 さて、「江戸時代の文学・思想」 は、文学史の書物によれば、「前期と後期」 の ふたつに分類できるとのこと。さらに、前期では、「元禄」 を特立し、後期では 「化政 (文化文政)」 を特立して、4つに分類することもあるそうです。「前期と後期」 の分類法は、われわれ シロート でも、理解しやすいですね。というのは、「前期と後期」 は、文化発祥の地が、それぞれ、「上方と江戸」 なので、それぞれの文化の特徴がちがっているだろうと推測できるから。上方の趣味は 「粋 (すい)」 で、江戸の趣味は 「通 (つう)・意気」 だと云われています。

 近世の文化が、それまでの時代の文化と際立ってちがう点は、「出版」 技術 (版刷り) が出てきた点でしょうね。近世に出てきた小説・浮世絵は、「出版」 技術がなかったら、「大衆」 に普及しなかったでしょうね。元禄期では、京の本屋 「八文字屋」 が有名で、八文字屋が出版していた気質 (かたぎ) 物・時代物を 「八文字屋本」 と云います。
 出版技術そのものは、文禄・慶長時代に、豊臣秀吉の朝鮮出兵で、銅活字と印刷機械を持ち帰っています。そして、銅活字に倣って、木活字が生まれ、本阿弥光悦の筆跡をもとにした木活字の印刷 (嵯峨本など) が出てきました。寛永期になって、板木に字を彫って印刷する整版が生まれ、印刷が盛んになりました──寛永期では、本屋の数は 100を超えていたそうです。その後、出版点数は、増加の一途を辿り、1685年には、5934種に及んだそうです。私は、江戸時代の版刷り本 (徒然草、枕草子、節用集など) を いくつか所蔵しています。

 そして、その 「大衆」 という概念も、近世は、それ以前の時代に比べて、性質がちがっていました。戦乱の時代では、「遁世」 とか 「悪党」 という人たちが出てきて──ちなみに、「悪党」 の風体が 「バサラ」 風を生んだのですが──、土地から離れた人たちがいたのですが、近世では、もと武士・もと農民・もと商人というふうに、階級から外れた (もとの階級に もどろうとしない、あるいは、もどれない) 「遊民」 が、多数、江戸にあつまってきて、直接生産に携わらないで、都会の消費生活・文化を担っていました。「遊民」 として、遊女や、作家 (井原西鶴 [ もと商人 ]、松尾芭蕉 [ もと農民 ]、近松門左衛門 [ もと武家 ] など) が典型的 「職業」 です。

 中世になって、「民衆」 の芸能風俗 (お伽草子、小歌 [ 閑吟集 ]、語り物、連歌、能・狂言など) が台頭してきて、近世になって、「人情物」 を主体とした俗文化 (俳諧、小説、浄瑠璃、歌舞伎、狂歌・川柳など) が生まれました。ちなみに、徂徠は、儒家で漢詩を作っていたので、(俗文化に対して) 雅文化 [ 和歌・漢詩の伝統文化 ] を担っていたのですが──国学者・漢学者が雅文化を担っていましたが──、徂徠は 「風雅論」 のなかで 「人情」 を基底にした文学の実作を説いていますし、伊藤仁齋 (儒家) も俗にこそ真の人情が現れると説いています。中世が 「憂き世」 であれば、近世は 「浮き世」 と云われていますが、近世の文化を担った人たちは、「遊民」 であったという点に私は興味を感じています。私の性質も、「遊民」 に近いので。

 近世の文は、現代文に近いので、古語辞典や文法書がなくても読めそうに思われるのですが、西鶴物・近松物は、独特な ことば が出くるので、古語辞典 無しでは読めないでしょう──しかも、一般の古語辞典では歯が立たたず、西鶴物・近松物に特化した特殊な古語辞典を入手しなければならない。

 「出版」 技術が出て、「作家」 という職業が誕生したのが近世です。近世は、200年以上も続いた時代ですので、その時代の小説も変化してきています──その系譜は、浮世草子 (西鶴)、八文字屋本 (気質物・時代物) を起点にして、以下の 3つの系統になるそうです。
 (1) 読本 (上田秋成、山東京伝、滝沢馬琴ら)
 (2) 談義本 (平賀源内) → 洒落本 (山東京伝) → 滑稽本 (十返舎一九、式亭三馬) → 人情本 (為永春水)
 (3) 黄表紙 (恋川春町、山東京伝) → 合巻 (柳亭種彦)

 西鶴は、そもそも、談林派の俳諧師で、西山宗因に師事していたのですが──ちなみに、西鶴の 「西」 という文字は、宗因の べつの号 「西翁」 の一字を許されたのですが──、余芸として綴っていた 「好色一代男」 が出版されて [ 江戸版では、菱川師宣の挿絵入り ]、好評を博したので、折から、俳諧のほうでは、蕉風が新風となって台頭してきたことに不満もあったらしく、本屋の依頼に応じて作品を書き続けて、浮世草子の作家に転身したそうです。なお、西鶴 (1642年〜1693年) と芭蕉 (1644年〜1694年) は、ほとんど、同年代です。

 近松 (1653年〜1724年) は、浄瑠璃作家です。浄瑠璃太夫 宇治加賀掾 (うじかがのじょう) のもとで浄瑠璃作家として修行して、31歳で自立しています。33歳のときに、竹本座の義太夫のために作った 「出世景清」 が好評を博して、浄瑠璃作家としての地歩を占めました。41歳のときに、坂田藤十郎 (歌舞伎) の依頼で歌舞伎作品を書いて、以後10年ほど、歌舞伎のほうに従事していました。51歳のときに、浄瑠璃にもどって──藤十郎が病気を患い歌舞伎が停滞してきて、いっぽう、浄瑠璃では 「からくり」 が導入されて再興されたのが回帰の理由だったそうですが──、竹本座で 「曽根崎心中」 を上演しました (空前の大当たりだったそうです)。以後、竹本座の座付作家 (専属) として浄瑠璃に専念しました。

 国学では、「契沖 (けいちゅう) → 賀茂真淵 (かものまぶち) → 本居宣長」 の系統が国学を整えました。この系統は、正確に記せば、「下河辺長流 (しもこうべちゅうりゅう) → 契沖」 と 「荷田春満 (かだのあずままろ) → 賀茂真淵 → 本居宣長 → 平田篤胤 (ひらたあつたね)」 であって、賀茂真淵が、契沖の実証性と荷田春満の情熱性を継承し融合して、国学の体系 (その復古的性質) を作ったそうです。そして、本居宣長 (1730年〜1764年) が、国学を完成したとのこと。本居宣長の没後、国学は二派 (文学・語学の研究を主とする本居春庭らの系統と、古道・日本精神の研究を主とする篤胤らの系統) に分かれました。

 私は、本居宣長を丁寧に研究したいのですが、平田篤胤になると、どうも 「ついてゆけない」。というのは、私の興味は、語学研究のほうに向かっているので。私の研究の狙いは、ことば (古代・中世・近世の ことば) を丁寧に調べて、日本人の精神を探るという点にあるので。私の やりかた は、徂徠の古文辞学の接近法や、宣長の やりかた (訓詁注釈) と同じです──ちなみに、宣長は、古語から日本 「古道」 を探ろうとしたのですが、かれは、徂徠の古文辞学を範にしています。宣長が徂徠の古文辞学を知っていた理由は、徂徠・契沖と交流のあった朱子学者 堀景山 (ほりけいざん) に師事して、漢学・国学を学んでいたからです。なお、宣長の本職は医師です (松阪で開業)。
 国学において興味深い点は、ほとんどの学者たちが 「万葉集」 を研究しているという点です。宣長も 「万葉集」 を研究して、さらに、賀茂真淵から 「古事記」 の重要性を教示されて、30数年を費やして 「古事記」 を研究して 「古事記伝」 (44巻) を完成しています。





 ▼ [ 史料、資料 ]

 ● 日本古典選 井原西鶴集 (上・中・下)、藤村 作 校注、田崎治泰 補訂、朝日新聞社

 ● 好色五人女 全、近世文学史研究の会 編、文化書房刊

 ● 世間胸算用 大阪府立中之島図書館蔵本、神保五弥・谷脇理史 注・解訳、武蔵野書院

 ● 西鶴諸国はなし、江本 裕 編、桜楓社

 ● 評釋江戸文學叢書 第一巻 西鶴名作集、藤井乙男 著、講談社版

 ● 西鶴織留新解、金子武雄 著、白帝社

 ● 新潮日本古典集成 近松門左衛門集、信多純一 校注、新潮社

 ● 現代語訳対照 近松世話物集、守随憲治 訳注、旺文社文庫

 ● 叢書江戸文庫 8 八文字屋集、篠原 進 校訂、国書刊行会

 ● 日本古典文学全集 37 仮名草子集・浮世草子集、神保五彌 他 校注、小学館

 ● 日本古典文学全集 46 黄表紙・川柳・狂歌、浜田義一郎 他 校注、小学館

 ● 日本古典文学全集 47 洒落本・滑稽本・人情本、中野三敏 他 校注、小学館

 ● 江戸戯作文庫 (第一期全 10巻)、河出書房新社 創業100周年記念出版

 ● 東海道中膝栗毛 (上・下)、十返舎一九 作、麻生磯次 校注、岩波クラシックス 22・23

 ● 新日本古典文学大系 偐紫田舎源氏 (上・下)、鈴木重三 校注、岩波書店

 ● 新日本古典文学大系 78 けいせい色三味線・けいせい伝受紙子・世間娘気質、岩波書店

 ● 新日本古典文学大系 85 米饅頭始・仕懸文庫・昔話稲妻表紙、岩波書店

 ● 日本古典文學大系 96 近世随想集、中村幸彦・野村貴次・麻生磯次 校注、岩波書店

 ● 説経節 (山椒太夫・小栗判官 他)、荒木 繁・山本吉左右 編注、東洋文庫 243

 ● 日本思想大系 27 近世武家思想、石井紫郎、岩波書店

 ● 日本思想大系 38 近世政道思想、奈良本辰也、岩波書店

 ● 日本思想大系 51 国学運動の思想、芳賀 登・松本三之介、岩波書店

 ● 日本思想大系 58 民衆運動の思想、庄司吉之助・林 基・安丸良夫、岩波書店

 ● 日本思想大系 59 近世町人思想、中村幸彦、岩波書店

 ● 日本思想大系 60 近世色道思想、野間光辰、岩波書店

 ● 近世儒家文集集成3 徂徠集捨遺、平石直昭 編集・解説、ぺりかん社

 ● 日本の名著 16 荻生徂徠、尾藤正英 責任編集、中央公論社

 ● 日本思想大系 36 荻生徂徠、吉川幸次郎・丸山真男・西田太一郎・辻 達 他 編集、岩波書店

 ● 日本の名著 21 本居宣長、石川 淳 責任編集、中央公論社

 ● 日本の思想 15 本居宣長集、吉川幸次郎 編集、筑摩書房

 ● 日本思想大系 40 本居宣長、吉川幸次郎・佐竹昭広・日野龍夫 編集、岩波書店

 ● 入学問答 天保 9年刊、平田篤胤 著、北小路 健 解題・翻刻、版本文庫 4

 ● 葉隠全集、山本常朝 口述、田代又左衛門陣基 筆録、中村郁一 編、五月書房

 ● 蘭学事始、杉田玄白 著、緒方富雄 校注、岩波 クラシックス 28

 ● 新校 羣書類從 (23冊、附別冊)、塙保己一 編纂、川俣馨一 増訂・再編、名著普及会
  [ 別冊は、「古文献読解便覧」。」

 


 ▼ [ 概説書、解説書 ]

 ● 天明文学--資料と研究、濱田義一郎 編、東京堂出版

 ● 近世紀行文芸 ノート、鈴木棠三 著、東京堂出版

 


 ▼ [ 日本語訳、英語訳 ]

 ● 日本古典文庫 16 西鶴名作集、里見 ク・丹羽文雄・吉行淳之介・富士正晴 訳、河出書房新社

 ● 評釋國文學大系 近松集、大久保忠國、河出書房

 ● 新釋 雨月物語、上田秋成 作、石川 淳 訳、角川書店

 ● 古典日本文学全集 35 江戸随想集、古川哲史 他訳、筑摩書房

 ● 笑話名作集 近世物語文学 8、長坂金雄、雄山閣

 ● 日本外史 (上・中・下)、頼 山陽 著、頼 成一・頼 惟勤 訳、岩波文庫

 ● 通議、頼 山陽 著、安藤英男 訳、白川書院

 ● 日本政記、頼 山陽 著、安藤英男 訳、近藤出版社

 ● The Life of an Amorous Man (好色一代男)、translated by Kengi Hamada、TUTTLE

 ● Five Women Who Loved Love (好色五人女)、translated by WM. Theodore De Bary、TUTTLE

 ● The Book of the Samurai HAGAKURE (葉隠)、translated by William Scott Wilson、KODANSHA

 ● A Haiku Journey Narrow Road to a Far Province、translated by Dorothy Britton、KODANSHA

 ● The Narrow Road to Oku、translated by Donald Keene、KODANSHA

 ● A History of HAIKU (volume one, tow)、by R.H. Blyth、THE HOKUSEIDO PRESS

 


 ▼ [ 辞書、辞典 ]

 ● 近松語彙、上田萬年・樋口慶千代、冨山房

 ● 元禄文学辭典、佐藤鶴吉、藝林舎

 なお、江戸語辞典一般に関しては、本 ホームページ の 171 ページ を参照してください。



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